夏の終わりのお買い物
職場に居る時は、私達従業員は必ずインカムを着ける事になっている。店内で装着している人全てにこちらの要望を伝える事が出来、とても便利なシロモノである。
『レジが混んできたので手伝いに来て下さい』『大量のラッピング依頼が入りましたので応援して下さい』といった"人手派遣"の依頼が圧倒的に多いが、迷子の捜索?依頼、病人発生の連絡、万引常習犯の来店の連絡(流石に隠語を使う)等、内容は多岐にわたる。
最近、多いのがこういった問い合わせである。
「どこかの売り場で花火のお取り扱いはまだありますか?」
「大人用の水泳帽のお取り扱いはどちらの売り場でしょうか?」
お客様が従業員に売り場を尋ねるのである。
先日などは、
「かき氷器はまだお取り扱いありますか?」
「簾はまだ残っていますか?」
というものだった。
一緒にレジに入っていたMさんと顔を見合わせて、
「残暑厳しいからですかねえ」
「でもかき氷器…もうちょっと寒くないですか?」
と吹き出した。
花火はお盆を過ぎると、赤字覚悟の値下げをして8月中に売り切ってしまう。次年度までは持ち越さない。火薬が湿気を吸ってしまうからだろう。
本来は子供用品売り場にあるのだが、私のいるレジ近くにも少し置いてある。
お盆頃は小さなお客様が精一杯背伸びして、レジカウンターによいしょ、と花火セットを置いてくれる。財布の持ち主は大抵おばあちゃんで、孫の俊足に追いつけず後から大急ぎで、
「すいません、すいません」
と汗をかきながらやってきてお支払いを済ます。その頃には孫はもう店のテープを貼った花火セットを得意そうに抱えておばあちゃんを見上げている…というような微笑ましい光景が繰り返される。
お盆が過ぎ値段がうんと下がると、普段着姿の地元の家族連れが多く購入される。
夏休みも終わりに近づいて来て、もうレジャーに行くという感じではないが、子供達は暇でイベントを待っている。じゃあ家で花火でもすっか、という感じだろうか。
お盆頃の小さなお客様にあったウキウキした感じは全くなく、しゃあないなあ、花火かい、という感じのダラダラした足取りの小学生くらいの子供さんが持つというより『持たされて』いるケースが多い。
『大人の水泳帽』は8月の終わり頃からよく聞くようになった。
9月からの大人の水泳教室にでも必要なのだろうか?あんまり何回も聞くので、常設したらどうかと思うくらいだった。すぐ近くに大手スポーツ用品店があるので、そこの方がきっと種類もあるし、良いと思うのだが…
ちょっと涼しくなった時に全部倉庫にさげたようなのだが、その直後にまたお問い合わせがあり、
「バックヤードから持ってきます!」
と衣料品担当者が答えていた。
一体いつ頃までニーズがあるのだろう。個人的には真剣に常設を考えてはどうか、と思っている。
因みに『かき氷器』は完売だった。そりゃそうだ。あったとしても、氷みつなんてとっくに売り場にないはずだから、お手製の氷みつを作るしかないだろう。それとも最近は別の食べ方があるのかしらん。
簾は季節終了で返品しようとバックヤードにさげ、梱包される寸前のものが一つだけあったそうで、無事に販売され、それにて目出度く完売となった。
最近風が強い日があったから、破けたのかも知れない。まだあったんだあ、とMさんと驚いていた。
私のいる売り場では、日傘は数本を残してほぼ完売した。こんなに売れ行きの良かった年はないそうだ。
ボアのついた帽子や靴、フェルト地のかばん等がボツボツ入荷しだした。一部はもう店頭に並んでいる。お客様のお尋ねも増えてきた。
今日は中秋の名月。
こちらに来て初めての秋を迎えようとしている。