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ホワイトデーのお客様

今ウチの売り場は「ラッピング祭り」状態である。あまりにもラッピングの件数が多いので、「どうしても包装紙で」と仰るお客様以外は、プレゼント用に予め装飾された袋に入れてリボンを貼り付ける、簡易ラッピングをお勧めしている。
先月からは経費削減の為、それまで使用していた『薄紙』も廃止された。尤もお客様には「地球環境への配慮からのエコ包装」という言い訳が用意されている。それほどこだわる方はいらっしゃらないので、これで良いのかも知れない。

三月は卒業、合格発表など人生の節目のイベントが目白押しである。そう言ったイベントにあわせてラッピングの需要がクリスマスの時期に負けず劣らず多くなる。
おまけに今月の十四日はホワイトデー。三枚千円のハンカチは飛ぶように売れている。服飾担当のYさんは毎日補充に忙しい。
ギフト用に可愛いオーガンジーの袋に入って納品されるものや、ポーチとセットになったものなどもあり、こちらもよく売れている。価格帯は五百円から二、三千円程度のものまで色々ある。

ホワイトデーギフトを買いによく来られるのは、私とほぼ同年代の主婦らしき人である。同じようなハンカチをどっとまとめ買いされ、
「一枚ずつラッピングして下さい」
と仰る。ちょっと疲れたような表情の方が多い気がする。
ええ、お返し買うの大変ですよね。お気持ちお察ししますよ。夫はお義理のチョコレート貰ってウハウハ言ってるけれど、自分でお返しくらい買えっちゅうねん。チョコは夫の腹の足しにはなっても、こっちの財布の足しにはなりゃしない。なのにお返しはこちらが財布から出すんですわ。アホくさいし、面倒くさいし、バカバカしい習慣やめにしてくれって言いたくなりますよね。
と心の中で同士を見つけたような気持ちになりつつ、にこやかにラッピングした大量のハンカチをお渡しする。

先日レジに入っていたら、幼稚園くらいの男の子がだーっと走ってきてレジカウンターに商品をバンと置き、
「これ、ホワイトデーにしてください!」
と幼稚園児特有のイントネーションで言った。
「かしこまりました。これとこれと、袋は二種類ありますがどちらになさいますか?」
口調は幾分和らげるが、私は相手が子供でも『お客様』として接する。男の子は目をぱちくりさせ、背筋をしゃんと伸ばした。ちょっと笑える。
私が差し出した袋の見本を見て彼はちょっと思案していたが、黙って片方の袋を指差した。ブルーのハートが付いた白い袋である。
「こちらですね。ではお時間五分ほど頂戴いたします。番号でお呼びしますので、お待ちくださいませ。お会計は七百七十円になります」
と言ったら彼は伸び上がってトレーに千円札を一枚置いた。ウチのレジカウンターは高めなので、さっきからずっと彼は斜め上を向きっぱなしである。
おつりとラッピングの引換券を受け取ると、ちょっと離れたところで待っていた若い女性のところに
「五分くらいって!」
と言いながら走って行った。お母さんだろう、私と目が合うとちょっと頭を下げて微笑まれた。私も笑顔でちょっと頭を下げる。
商品はぬいぐるみ付きのハンカチである。なかなかカワイイ。この子が「これが良い」って言ったのかな、なんて考えながらラッピングする。
幸い空いている時間帯だったのですぐに仕上がり、番号でお呼びすると彼はまた駆け足でやってきた。私はレジの外に出て、腰をかがめてお渡しした。
「お待たせいたしました。値札はこのようにお取りしておりますので、ご確認下さいませ。ありがとうございました」
と言って商品を渡すと、彼はこっくり頷き
「ありがとう」
と大きな声で言ってまたお母さんのところに走って行き、
「ねふだ取ったって!」
と大きな声で報告する。お母さんはまた私を見て微笑んで頭を下げられた。こちらも丁寧にお辞儀を返す。
あれを受け取るのはどんな「彼女」かしら。お見送りした後、思わず一人で微笑んでしまった。

これくらいの年齢から「バレンタインのお返しは自分で選んで買うもの」って教育していれば、きっと大きくなっても自分で買うようになるんだろうなあ。遅きに失した我が夫には、今年もミッションを仰せつかっている。やれやれ、何にしようかしら。