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出汁と味噌汁

小さい頃から味噌汁が好きだった。特に味噌汁を全て飲んだ後に残る、あの豆の欠片が好きなのである。あれがない味噌汁は物足りない。
小学校の給食の味噌汁は、家のものよりずっと粗いざらっとした感じの味噌が使われており、残る豆の欠片も随分大ぶりだったので、いつも楽しみにしていた。柔らかい大豆の欠片が美味しくて、最後に大事に食べていた。
母に言うと笑われた。
私が好きなのは所謂『みそっかす』で、仲間外れになる子供のことを馬鹿にして言う言葉でもあったから、それが好きということがおかしかったらしい。

母は自身が味噌汁嫌いなこともあり、味噌に大きなこだわりはなかったようだ。ただ出汁は絶対に毎回とる人だった。子供の頃は宿題を台所のテーブルでやりながら、母が煮立った鍋にバサッと鰹節を入れるのをよく見ていた。
結婚して自分で台所に立つようになってからは、当然のように母のやり方で出汁を取り、味噌汁を作っていた。

やがて子供が生まれ、離乳食を与える月齢になった頃、地域の保健センターで『初めての離乳食教室』に参加した。
そこで配布されたテキストに『出汁の取り方』が載っていた。
昆布を前日の夜から水につけておき、翌日弱火にかける。煮立つ直前に鍋から引き揚げ、沸騰させて鰹節を入れる。3~5分程度経ったら網で掬う。
これでおかゆを炊く、というのが初めて習った離乳食の作り方であった。
料理の好きな人なら、色々と応用をきかせてもっと器用に美味しい離乳食を作れたのだろうが、料理嫌いな上に不器用ときているから、当時は習った通り忠実にやるしか考えられなかった。

離乳食は小さな匙一杯から始めるから、使う出汁は大人の分とまとめて取っていた。毎日毎日このやり方で取っているうちに面倒くさいとも思わなくなり、これが我が家のスタンダードになってしまった。
母には随分丁寧なやり方で取るんやねえ、そらおかゆも美味しかろ、と感心された。
やがて子供が大きくなって離乳食が終わると、出汁は味噌汁に使い、煮物に使い、おでんやお好み焼きにも使っていた。あまり使うので、大量に取って冷蔵庫に保管していたこともある。
今は夫と二人なので、そんなに大量に使うこともない。一回ずつ必要なだけ取っている。汁の量が少ないから、気を付けないと弱火でもすぐに煮立ってしまう。鰹節もほんの少しで濃い出汁が取れる。

大好きな『みそっかす』の出る、ちょっと粗い味噌を使って味噌汁を作る。
具で好きなのはサツマイモ。今の時期はとても美味しい。ちょっと煮崩れかけて、『みそっかす』と芋の欠片が混ざっているのなんて、最高に好きだ。
キノコ類は入れたらすぐに火を止める。余熱で十分火が入るし、この方が香りがよくて美味しい。昆布と鰹節とキノコというとても美味しい出汁ができるから、この時の味噌はあまり濃くしない。その方が美味しい。

いつしか今日の味噌汁の具材を考えることも楽しいと思えるようになった。
主婦生活も長くなったものだ。
明日は栗ご飯。なんの味噌汁にしようかな。