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私は迷惑をかける生き物です

先日、仕事で結構大きめのチョンボをやらかしてしまった。課長は気の毒に、その対応で午前中をほぼ潰してしまう羽目になった。
良いお客様だったのと、こちらもミスに直ぐに気付いたのが不幸中の幸いで、運良く短時間での解決に至ったが、本部の経理の方まで巻き込み、落ち着かない気分で過ごした。

何より辛かったのは、酷暑の昼下がりにお客様に再来店して頂いた事である。完全に私個人のミスなので、非常に申し訳ない思いでいっぱいだった。誰だってこんな暑い日に2回も外に出たくない。
課長は午前中に売り場のレイアウト替えをしている最中に、私が
「課長!すいません!やらかしました!」
と血相を変えて来たので、あちゃーもう今日はレイアウト替え無理だなあ、と思ったそうだ。申し訳ない事である。直ぐに本部に連絡をとって、対応を協議してくれた。
お客様から間もなく連絡があり、課長が応対してくれて、来て下さる事になった。
もう平謝り、である。

お客様が来店され、これ以上出来ないくらい謝ってお詫びの品をお渡しし、お帰り頂いてホッとして報告すると、Fさんが、
「どうして僕を呼ばなかったの?!」
という。課長は昼食休憩だったので、Fさんがお詫び要員として待機していてくれていたのを、私は知らなかった。
「こういうケースは、ちゃんと上役が一緒にお詫びするんだよ。こっちのミスなのにわざわざ来て頂いてるんだから。貴女一人で済ませちゃだめだ」
Fさんに注意されてしまった。自分がお客様でも、その方が感じが良いに決まっている。冷静に判断すれば分かることなのに、やはりテンパってしまっていたようだ。

謝る私に、Fさんはこう言ってくれた。
「貴女は責任感強いから。『私が失敗したんだから、私がお詫びしなきゃ』って思ったんだろうけどね」
いやいやFさん、単にテンパってただけなんです、と思ったが、根拠のない慰めより有り難い言葉に、Fさんの優しさを感じて肩の力が少し抜けた。

事態が無事収束した後、放心状態で暇になったレジで作業をしていると、午後出勤の社員のOさんがやってきた。
「皆さんにご迷惑かけてしまって、今さっき終わった所です」
そう言ったら、Oさんは顛末を聞いてくれた後、
「良い方向に全部収まって、良かったじゃないですか。もう次からは同じ失敗しないでしょ?ドンマイドンマイ、ですって」
と笑って言ってくれた。
彼女は入社4年目。私の子供と同い年である。娘に慰められたみたいで、背中がモゾモゾした。しかし気分的には凹んでいたので、有り難かった。

退勤時間になり、落ち込み気味の気分で会社をあとにすると通用口を出た所で、
「お疲れ!どしたの?なんかあった?」
と出勤前のYさんに声をかけられた。どうも気分が顔に出ていたらしい。
実はこれこれ、とまた説明すると、
「まだ3ヶ月だもん、色々やっちゃうって。しょうがないよ。お客様良い方で良かったじゃん。気にしないで」
と肩をポンポンしてくれた。
泣きはしなかったが、ちょっと涙腺が怪しくなってしまった。

正直に言うと、失敗がわかってからの私は心の中で、
『レジってやっぱ嫌い!お金触るの好きじゃない!覚える事多くて面倒くさい!』
とブツブツ言っていた。
まあ、妥当な反応だろうと思う。腐らない方が変だ。

だが、直ぐに事態の解決に奔走してくれた課長。私の対応を良いように解釈して、声をかけて下さったFさん。話を聞いて、慰めてくれたOさんとYさん。
私は人の縁に恵まれている、と思った。

私達日本人は子供の頃から、
「人に迷惑をかけないようにしなさい」
と教えられて育つ。自分もそう言われて育ったし、私も子供にそう言って育ててきた。
しかし、人間は誰でも不完全な生き物だ。誰かの助けなしには生きられない。
「迷惑をかけないように」という言葉には、
「迷惑をかけたらどうなるか」
という先の読めない怖さがあり、新しい事へのチャレンジをする意欲に、ブレーキをかけている気がする。

確かインドでは、
「お前は人に沢山迷惑をかけるのだから、人の事も許してあげなさい」
と子供に教える、と聞いた。
日本の古い教えを全て良くない、という気はないが、この言葉に関しては、日本式よりインド式が人にとって嬉しいように思う。

翌日、出勤して課長にあらためて謝罪すると、
「落ち込んでない?ちゃんと寝たよね?」
と気遣われてしまった。

私は幸せ者だ。