自己解決能力の高め方〜事業投資家が語る、問題解決の極意〜
こんにちは。事業投資家の林 周平(はやし しゅうへい)です。
僕は現在、フィールドエックスグループのCEOとして、10社のグループ会社の出資・経営に関わっており、企業共創支援機構の理事と、共創経営塾の代表としても活動しています。
僕のプロフィールは以下をご覧ください。
今回は、仕事を行う上で最も重要なスキルと言っても過言ではない、「自己解決能力の高め方」について解説していきます。
企業や事業を運営していると、色々な問題が発生します。
企業や事業に影響を与える社会問題など規模の大きなものから、お客様や取引先に関する問題や、社内で起きた問題など企業単位のもの、さらには企業の社員一人ひとりが抱える問題まで、その種類や角度は様々です。
むしろ、次から次に発生する問題をどのように解決していくのか、こそが仕事の本質の1つであり、企業や個人の成長に必要不可欠なスキルと言えるでしょう。
僕は、これまで多くの事業立ち上げや企業の経営コンサルティングに携わり、現在は10社のグループ企業の出資・経営を統括しています。
よく人から「林さんは、よく色々な角度や種類の問題に対して、的確なアドバイスができますね。どうやったら林さんのような視点や考え方が身に付くのですか?」と言われますが、別に僕が特別に何か特殊な能力を持っているという事ではありません。
ある問題をいくつものイシュー(課題)とプロブレム(問題)に切り分けて、フレーム化して、それそれ最適な解決方法を模索しているだけです。
今回は、僕が一体どのような視点で問題を捉え、どのような方法を用いてアドバイスをしているのか、「自己解決能力の高め方」について解説していきたいと思います。
【第1章】ご相談事例(とあるウェブディレクターStarさんの話)
第1章では、フィールドエックスグループのある社員の方に、実際にいただいたお悩み事例に対し、フレーム化を用いて回答する形で、「問題の切り分け方」の具体的な方法を解説します。
フィールドエックスグループの会社に勤めるウェブディレクターのStarさんから、以下のようなご相談をいただきました。
あなたなら、このご相談内容をどのように解釈しますか。
相談者が上司とかコンサルタント、職場の仲間だとした場合に、今このStarさんには何が起こっているのか、どのように解釈できるかを考えてみてください。
林にはこう聞こえました
僕がこの相談をどう見たか、どう聞こえたのかを図示してみると次のようになります。
これはフレーム化という方法を使って回答を行なっています。
上記赤字の①〜⑨について本当は詳しく解説していきたいのですが、長くなってしまうので、①〜③の3つについてのみ、詳しく解説します。
ご相談の文脈を見てもらうと、①の「制作寄りではない」悩みの前提として、「普段から慣れている仕事じゃないものが来てしまう」と言うことがわかりますね。
②の「制作寄りの依頼についてはGoogleで調べればわかる」、については「明確な指示があれば自分で解決できる」という事が分かります。
最後、③の「1〜2日で終わるような対応がある」ということについては、「日をまたぐような大きい仕事に対して、課題感がある」ことを示しているのではないでしょうか。
①〜③以降の、「④進め方に右往左往してしまっている」「⑤後からご依頼いただくクライアントの案件を優先してしまってタスクが進まない」という悩みも、「期限と優先度の設定が明確ではない、もしくは期限があっても、それを守るような職場環境じゃないから起こる」という仮説が立てられます。
さらに、⑥の、商品撮影という工程が終わっていないことでデザイン進行が影響受けてる感じからも、上記仮説による効果が察せられます。
⑦の「決まっていないことを調べつつ進める必要がある」については、調べることと意思決定が同時に発生していると考えられます。
⑧の「調べられていない」ですが、これも知らないことを調べることに対してストレスがあるから着手できないのではないでしょうか。
⑨の「伝えたいことが全然伝えられていない」については、伝えたいことを伝える、考えることそのものに負荷があるのでは、と察しました。
このように、このウェブディレクターStarさんの相談内容は上記のような切り方ができます。
僕の回答を以下画像にまとめてあります。
問題解決力を高めたいという課題については、「問題の切り分け」でだいたい解決する!
問題解決力を高めたいという課題については、「問題の切り分け」が解決において有効です。
前述した、ウェブディレクターStarさんの相談事例でも、「Google検索は苦なくできる」という話でした。つまり、何を検索すればいいかが理解できるほど、タスクが明確になってないのです。
僕は、自分が関わっている各プロジェクトの専門家ではないですが、現行ある10社に対して、なぜアドバイザーみたいなことができるかといえば、問題の切り分けができるからです。
つまり、問題の切り分けを専門的にできる人とは、コンサルタントです。
当然ながら、細かなヒアリング能力がなかったり、業界の知識が完全にゼロであれば、コンサルタントは務まりません。
コンサルタントは、問題をどのように切り分けるべきかを知っているからこそA社、B社、C社というように経験や知識から企業の悩みをパターン化できます。
まずは、このウェブディレクターStarさんの事例から、問題解決には「問題の切り分け」が有効であることをご理解いただけたと思います。
【第2章】自己解決力の高め方
第2章では「自己解決力の高め方」について説明していきます。
自己解決力の前提〜自己解決能力はどうやったら高まりますか?〜
そもそも「自己解決力」という言葉は、あまり一般的な言葉ではありません。
そのため、まずはこの「自己解決能力」というものが一体なんなのか、そもそもの大前提から説明していきます。
そもそもチームとは、依頼主(クライアント・上司・職場仲間など)から頼まれて仕事をします。
チームには、仕事仲間とあなたがいるため、基本的に本当に1人でやる仕事は多分そんなにはないはずです。
その業務中には、ある部分を誰かに頼んだり、相談したり、誰かのレスを待つ、などのタスクが発生すると思います。
自己解決能力が必要となる場面としては、依頼する側からわけのわからない依頼が来たり、1人ではとても完結しないような仕事を抱えてしまった仲間に、自分の時間がもっていかれたりしてしまう状態に陥ること、などが挙げられます。
つまり、「自己」だけで解決できることは、そもそも現場にはほとんどありません。
このため、周りも含めて「解決能力」を高めなければ、自己の解決は起こりえないということなのです。
例えば、依頼主から、わけがわからない依頼をされた場合、「『何がわからないか』もわからない」状態なため、第1章で紹介した「とあるウェブディレクターStarさんの相談事例」のように、問題の切り分けもできず解決しようがありません。
同じく、「仕事は1人で完結しない」という前提に基づけば、実は別に自己(=1人)だけでやる必要なんてそもそもなく、詳しい人に聞けば解決することも多々あるという事です。
イシュー(課題)とプロブレム(問題)は違う
「問題は切り分けである程度解決できる」と前述しましたが、切り分けた問題は同じものとして扱うのではなく、イシューとプロブレムに分ける必要があります。
イシューとは「課題」で、プロブレムとは「問題」です。
イシューは、これからどうしていくべきかを調べ、考え、意思決定することです。
「これからの人生どうしよう」というような壮大な課題(イシュー)もあるでしょう。そんな壮大なことをGoogleに訊いても解決しません。
一方、問題(プロブレム)は「血が出てる!どうしよう」とか、「頭が痛い、吐き気がする」という「対処」が必要なことです。調べればわかることもあります。
つまり課題(イシュー)は、課題や目的などが不明確です。調べてもわからないことであるため、「問いを立てる力」や「意思決定する力」が求められます。これらは、リーダーや上長に求められる能力です。
問題(プロブレム)では、問題内容や目標が明確です。つまりGoogle検索などで調べればわかることになります。
したがって、問題(プロブレム)を解決したい場合は、概要がわかる範囲で細分化して渡してあげる、もしくは細分化するスキルがあれば、大した問題にはなりません。調べる力、それを実行する力が備わっていれば大丈夫でしょう。
課題(イシュー)と問題(プロブレム)は、どちらかだけが得意で片方は苦手である人もいれば、両方とも得意という人も存在します。
課題(イシュー)の扱いが上手い人は、企業家とか社長さんのようなリーダータイプです。そして、リーダータイプが問題(プロブレム)の解決が得意かといえば、そうでもないことが多いです。
課題(イシュー)と問題(プロブレム)を解決するには、それぞれ異なるスキルが必要なのです。
問題解決能力が高い人に課題を助けてもらおうとしても、なんともならないことが結構あります。
だからといってその人がリーダーに向いてないとか、リーダーだけが偉いというわけではありません。
リーダーとフォロワー(スタッフ)という関係性があって初めて、コミュニティや世界が成り立つわけなので、どちらの立場も尊重すべきです。
課題(イシュー)は、意思決定者でなければそもそも対応不可能です。
部下に「うちの会社どうにかして欲しいから、ちょっと考えてきてよ」みたいな、とんでもない課題(イシュー)を問うても、それはタスクとして機能しません。
一方で問題(プロブレム)は「作業者」として対応が可能です。作業そのものを切り出せることも意味します。
課題(イシュー)のための意思決定をするためには様々な要素が必要となります。
予算、全体のノリ、「私、ここまで言っていいかしら」というような社内の関係性など多様です。それらを加味せずに「決定しろ」と言われても不可能です。
そして、課題(イシュー)は「決める」「調べる」を伴うため、脳への負荷が大きいのが特徴です。
一方で、問題(プロブレム)は、脳への負荷が小さいです。
以前、時間管理ハックのコラムでも解説したことにつながりますが、課題(イシュー)の方が創造的なタスクとなります。
一方で、問題(プロブレム)の方がもう少し自動的にできるタスクであるため、疲れている時でもお酒を飲んでいても進行できます。
そのため、課題(イシュー)はゆっくりした日に、考え事をして、ノートを広げて、とした方が進めやすいはずです。
課題(イシュー)を解決したい場合は、使おう、使われよう
まず、「自己解決能力を高める」という今回のタイトルとは反対の結論となってしまいますが、そもそも「課題(イシュー)を解決したい場合は、意思決定権者がやるべき」だと僕は考えています。
いわゆる意思決定権者じゃない人が、自ら物事を調べて決定できるようになろうというようなセミナーが世間にはありますが、僕は結構、否定的です。
理由は、ロールがわかれているからです。意思決定権者が意思決定者として最強の動きをして、意思決定権者ではない人は、意思決定者をちゃんとサポートすればいいのです。
僕自身もそういう動き方を以前していました。
僕は今でこそ意思決定ができますが、当時は意思決定権者ではなかったため、意思決定権者であるCEOに対して秘書的な役割をしていました。
秘書とはただただ情報をまとめる、アポイントを取る、だけではなく、いわゆる政治家における政策秘書のように、意思決定や戦略決定に役立つ「右腕」です。
右腕は「私ならこう思いますけどね」という内容を添えて伝えます。結局、最終的に決定するのは意思決定権者です。私がどう思うかは一つの情報にしか過ぎません。
もしあなたが意思決定権者である場合、役割は「意思決定に必要な情報を与えること」です。
その際に大事なことは、明確に指示することです。
指示の内容が明確ならば、あなたの周りにいる仕事仲間の効率が上がるためです。第1章のとあるウェブディレクターStarさんは意思決定権者ではなかったので、上記図の「仕事仲間」に属します。
お互いのロールの違いがあるだけなので、何をすべきかわからないのであれば「指示の内容を明確にしてくれ」と意思決定権者に話せばいいでしょう。
特に課題や目的を明確にすることが重要です。意思決定権者は、課題や目的が明確ではなくても働けるロールです。むしろ課題や目的を明確にする役目があります。
しかしながら、仕事仲間とは政策秘書みたいなものであるため、ある程度指示の内容が明確でなければ動けません。意思決定権がないのに決定していいよ、と言われても動きようがありません。
双方のロールには大きなギャップが生じます。
そこで意思決定権者は、部下がわかる範囲で指示を出しましょう。
部下がイメージできる、裁ける範囲をちゃんと見抜いてあげなければなりません。その上で少しだけ背伸びさせられると良いと僕は思います。120%背伸びさせてあげて、その上で報連相を細かく何度も回してあげればいいでしょう。
ひとつの大きなテーマを担当するのはそもそも意思決定権者です。
それ以外の人に対しては、例えば日次ミーティングを開き、1日1回のPDCAを実行するというように細かくぐるぐると回してあげる。
フィジカルな距離が近ければ1時間に1回などもっと回転させることもできるでしょう。
【課題(イシュー)解決のポイント1】
事実と主観を分けた上でどちらも伝えよう
秘書的役割を持つ仕事仲間がすべきこととして、事実と主観をまず分けることが必要だと言えます。これは社会人1年目で学ぶことだと思いますが、意外とできていないことが多いですよね。
事実と主観をぐちゃぐちゃ混ぜて話す人も当然いますが、僕の印象によるできていない例としてはそれよりも、その場に事実を喋る人しかいなかったり、主観しか喋らない人しかいない、というものです。
両方言わないとダメだろ、ということです。
主観も大事です。だって、その現場にわざわざ足を運んで見に行った人がいたのであれば、当人の主観で何を感じたか教えてもらうことは情報として貴重ですよね。
主観は主観で重要ですが、かといって主観ばかりだと危険です。具体的に「何が何個あった」という客観的事実=根拠と「犯人は誰だと思うか」という話はまた別です。
情報は情報で事実として伝え、そして事実だけではGoogle検索と変わらないため主観は主観で大事です。
【課題(イシュー)解決のポイント2】
定量、定性的情報も分けた上でどちらも報告しよう
続いて、定量的な話、定性的な話を両方とも言うことも大事です。
こちらもどちらかに偏るケースが多いです。
今の世の中は、ロジカルである方が評価される謎のビジネス社会となっているため、定量や事実が大事にされるのが当たり前となりつつありますが、定性も非常に大事です。余談ではありますが仮にAIがものすごく発達したとして、定量や事実だけ扱っていたのでは淘汰されてしまうでしょう。
主観や定性的な部分には、人間の素晴らしさがあります。だから両方を添えましょう、両方とも大事ですね、ということです。
主観と定性的な部分だけ報告されても、それはそれで意思決定権者はちょっとどう解釈していいかわかりません。
イケてる人は両方報告します。「事実はこういうことでした、その上で私はこう感じました。なぜならばこうだから。でも判断は任せます」という形だと想像しやすいでしょうか。
するとその報告を受け、上司の方も「なるほどなるほど。お前のその主観に対して俺はこう思うから、今度はもう1回ここを調べてきてよ」と好PDCAが回り始めます。
これを繰り返すと、非常にいい部下が育ちます。
部下は部下でそもそも意思決定権がないため、意思決定をしなくて済み楽です。時間管理ハックの話で言う、脳への負荷がない状態であるためです。
【課題(イシュー)解決のポイント3】
意思決定の際に「これはやめよう」的ヒント
意思決定に関して、すべきではないことについて解説します。
調べながら意思決定をして進めることは、大きな負荷がかかります。あまり生産性が高くなりません。
また、上記の図における意思決定権者と秘書的役割の人々とのやり取りを行う上では、「意思決定してくれない上司」というものが現れがちです。
特徴としては「わかんないね」とか言いながら、「君はどう思ったの、君に任せるよ」とその場だけの意思決定権を与えてこようとしてきます。部下としてはそれだけではとても決められません。
そういう状態が続くと、部下の心がだんだん折れ、嫌になってきます。押し付けられている感が拭えないためです。
また、急に「決めていいよ」と言われても、他のもろもろの情報がなければ決められません。有効的な方法とは言えません。
多くの方は、世の中の風潮に乗せられて、意思決定の要が権限委譲であると捉えがちです。
そういった場合、極端なポイント・場面ごとに、急にポンと何か権限を開放しがちです。しかしながらその権限はほぼ効力がないため、使えません。
【課題(イシュー)解決のポイント4】
指示を仰げ!
秘書的役割を持つ仕事仲間たちから意思決定権者へ向けて「指示を仰ぐ」という行為は非常に大切です。
リーダーはみんな、自分ごと化して頑張っているものです。ただ立場上、部下が上司に物事の判断を仰ぐ行為は心理的負荷がかかります。
そのため部下は「指示をくれ」とは言ってくれなくなります。そこで、上長にどんどん聞いてくるように促すことが大事です。
日本の教育、社会人になってからの教育も含めて「下の立場から上へどんどん聞きましょう」という教育は受けないものです。
聞いたら「ヘボい」とか思われそう、とか、「聞きすぎかな」とか、「何を聞いていたんだ」と怒られるかな、と部下はいろんなことを考えてしまいます。
このため上司から「どんどん聞いてよ!」と呼びかけ、何でも聞ける文化を作って、固定概念を矯正しないといけないですね。
ただ上記の方法は、空間の近さを要します。フィジカルな距離がないと実現しづらいです。
昨今ではテレワークのチームが多いはずです。このため本件は結構な確率で課題となります。
したがって、たまに強制的に喋る時間をつくるとかで「聞く」行為をしつけするように癖付けてみてください。そうでもしないと相手は聞いてきてくれません。
様子見を起こさせないためのポイント
上司とは、戦略・戦術・業務・タスクを全部見えた上で、タスクの話をしたりします。
ただ、話を受けるスタッフさんは「これ(タスク)やっといてね」の「これ」しか見えません。どのような戦略のもとにそのタスクが存在しているのかなど、わかりません。
そこで、ちゃんとそのタスクの上にある意図・前提をしっかり共有して、相手との話を進めるべきです。
問題解決能力を高める3つの方法
ここまで、自己解決能力の前提として、どのようにすれば自己解決能力は高まるのかについて、概念的な話をしてきました。
ここからは、具体的に問題解決力を高める3つの方法について紹介します。
1つ目がクリティカルシンキング、2つ目が参照枠、3つ目が優先度付けです。
◆方法1:クリティカルシンキング
「クリティカルシンキング」という言葉は聞きなれないと思いますが、リクルートのサイトからお借りした言葉です。
サイト上では、クリティカルシンキングとは論理的・構造的に思考するパターンであると説明されています。
自分が普段、無意識にとっている行動や考え方を意識化することで、客観的かつ分析的に振り返る、という意味でもクリティカルシンキングが用いられます。
さらにもう1社、ラーニングエージェンシーという企業では、クリティカルシンキングは日本語にすると「批判的思考」と訳されるため、「粗探し」をするようなイメージを持ってしまうかもしれませんが、決して欠点を指摘するための思考法ではないと説明されています。
さらに、「本当にこれで正しいのか」という視点を持って物事を見ることで、より正しい論理に繋げていく思考法であるとも解説されています。
簡単に言うと、メタ認知して、構造的に分解集積して、本質を捉えるということです。
一段上から俯瞰して見る、ということですね。
関西弁で言うと「ほんまかいな」「そもそも何やねん」です。
僕の近くにいる方はわかると思うんですが、基本的に僕は相手の言っている言葉を真正面からは受け止めていません。いやらしく文脈で読んでいます。
ただ、どうやらそういう感じが、クリティカルシンキングのようです。
では、どうやったらクリティカルシンキングができるようになるのでしょうか。
クリティカルシンキングを構成する3要素
クリティカルシンキングを構成するものを分解すると、「①ロジカルシンキング」「②前提意図の洞察力・構造的理解」「③バイアス×バランス感覚」の3要素に分けられます。
①〜③について一つずつ詳しく解説していきます。
①ロジカルシンキング
まずクリティカルシンキングを構成する要素の1つ目がロジカルシンキング、論理的思考です。
クリティカルシンキングが本質的思考だとすれば、ロジカルシンキングは論理的思考です。
論理的に物事を検証する力や、問題解決を推進する思考プロセスがロジカルシンキングです。
ロジカルシンキングは、問題解決能力は高いです。
つまり前章におけるイシュー=課題を課題解決するための思考プロセスとしては、ロジカルシンキングはあまり有効ではありません。
理由は、論理的に考えていくとどんどん話が直線的になるためです。
余談ですが、ブレインストーミングとは横展開です。直線的に「なぜなぜなぜ」と進める思考ではありません。だからこそ、ブレストの際はよく批判NGと言いますよね。
例えばブレインストーミング上で「ノート」という話題が続いていたものの、急に「苺」という提案が出たとします。なんでやねんって話ですが、一応今思い続けましょうね、という進行がOKなのがブレインストーミングですね。
つまりブレインストーミングには右脳に訴えかけるような、面白いアイディアを出そうという目的があるということがわかります。
一方で問題解決には、「なんで今、ノートといちごが繋がるんだよ」「共通点は何?」「物であることが共通点かな」というような、裁判をするときの考え方が必要であり、これこそロジカルシンキングです。
さらに余談ですが、ロジカルシンキングは矛ではなく盾です。
ロジカルシンキングとは騙されないための思考法です。ロジカルシンキングを矛として使い始めると、その人は人間として嫌われます。さらに何の課題解決もされない、何も良いことがない状態になります。
大学生のときの僕はそうでした。今でこそ人の心について語れるようになれましたが、その頃の僕はロジカルシンキングの本を読んでおり、自分とフィットしている、正しいことだと感じていました。
論理的に正しいことを言っているつもりなのに、みんながすぐ白旗を振るようになりました。最終的に、大学3年生時に所属していた軽音楽部における幹部ミーティングの際、相手を論破しまくっていた僕は、部活の仲間から「お前はもういい」「お前はロボコンやからお前参加しなくていい」と言われました。
そのように議論を放棄された僕は、衝撃的でした。そこから「世の中はロジカルだけじゃないんだな」ということを学び、今に至ります。
クリティカルシンキングとロジカルシンキングは似ている概念として世間では捉えられているようであり、世の中ではロジカルな方が正しいと言われていますが、大きな間違いです。
ロジカルシンキングは鍛えれば誰でもできます。右脳的な発想力なんてものは教えて伝えられるものではありません。5W2Hなどをこねくり回しながら、アイディアを出そうという出版物がビジネスパーソン向け思考法としてよくありますが、思い浮かべられないと言葉ではうまく伝えられないものではないでしょうか。
したがって、ロジカルシンキングが難しいという思い込みをなくしてもらえたらと思っています。
②前提意図の洞察力・構造的理解
クリティカルシンキングを構成する要素の2つ目が、前提意図の洞察力、構造的理解です。
これは、話の背景を見抜き、検証する力のことです。
前章のStarさんの事例でもありましたが、話の文脈から「もしかしたらこの人はこうなのかな?」と察していくようなことです。
察した段階だけではまだわからないため、「合っていますか?」と検証していくことになりますが、営業的な言い方をするとテストクロージングをしていくことに似ています。
抽象と具体を行ったり来たりして全体像を俯瞰しながら、意図・前提の洞察、構造的な把握を進めます。
全体像がわかると初めて、ちゃんと意見を持てるようになります。
③バイアス×バランス感覚
クリティカルシンキングを構成する要素の3つ目がバイアス×バランス能力です。
バイアスとは、物事の思い込みです。思い込みが激しいことを「バイアスがかかっている」と表現します。
僕が今回の資料をつくる中で調べた結果、クリティカルシンキングと物事の偏りに気づく力は割とセットで語られることの多いキーワードでした。
世の中にはそのように認識されているのでしょう。「本質を見抜くときにはバイアスの偏りに気をつけましょう」とは一つの共通認識でありヒントのようです。
バイアスのかかってないど真ん中が正しいのか?といえば全然そんなことがありません。そこで、その場ごとに「いい塩梅を見つける」というバランス感覚も大事かと思います。
クリティカルシンキングの事例
次に、実際の相談事例を使って、クリティカルシンキングについて、「具体的にどういう事なのか」を解説していきます。
この相談は、新入社員の方で、ニックネームBell Treeさんにいただいた実際の相談内容です。
こういった事例は少なくないかもしれませんが、「こうしたらいいじゃん!終わり!」という風にはせず、「なぜ、それが発生しているのか?」を見るのが、クリティカルシンキングの考え方です。
構造を見て、何が原因で起こってるのかを探ります。
これは、僕がよく企業や人に対するコンサルするときの方法でもあるのですが、「何がそうさせたのか?」という言い方をすることがよくあります。
言ってしまえば、子どもの非行の原因を探るような感じです。
非行に走った子どもに対して、「お前の素行が悪いんだ」と言っても仕方がありません。「何がお前をそうさせたんだ」という見方が必要です。それを大人にも適用しましょう。
何が起きているのか、という洞察から問題の根本が見えてきたりします。それとプラスで、問題が明確になれば解決案を探せます。
先ほどの、Bell Treeさんへの僕の回答は以下のようになります。僕は、今回の事例をこのように切り分けました。
クリティカルシンキングを身につけるには、環境が大事!
クリティカルシンキングは残念ながら、勉強して身に付くものではありません。
クリティカルシンキングを身に着けたいなら、日頃から「クリティカルシンキングがデキる人」と過ごして自分をブラッシュアップしていくのがいいと僕は思っています。
そもそも、思考法みたいなものは、勉強して身につくものではないのではないでしょうか。
思考法の伝達は、学ぶべき相手の横にいながら、一緒にディスカッションしながら「なるほどここでこう見るのか」と、技を盗むようにあるいは戦いを重ねながら、物事の見方・考え方が乗り移っていくといったフィジカルな教えであるように僕には思えます。
脳の中の話ではありながら、部活と一緒であるように思えます。
部を3年ぐらい継続するからこそ、もし甲子園に行けるようなチームになったのであれば成績が良くない子でもそこそこ強くなったりすると思います。
このため、クリティカルシンキングを学ぶために「上から順番に実践する」のではなく、大事な観点が何かを見極めて、今一緒に過ごしている人の中で「この人いいな」とか「この人のこういうところがすごいな」と思える人を分析したり、乗り移らせてもらって染めてもらう方がいいように思います。
僕は上記のやり方が得意です。僕がこのクリティカルシンキングができるようになった背景には、母親の影響が強くあります。
中学ぐらいから、母親と毎日2時間ほど議論でバトルしていました。そのときに鍛えてもらっていて、勉強して身につけたわけではなく、昔から議論に負けたことがありませんでした。
元々、議論には得意意識があり、「議論なら俺は負けない」と中学の時から思っていました。しかしながら、今思えばそれは母親との取っ組み合いの中で培ったものでした。
そこで、幸い僕がこの辺は得意なので、自社グループ内では、勉強会というよりはスパーリングをしてお互い切磋琢磨していきたいと伝えています。
◆方法2:参照枠(Frame of Reference)
問題解決能力を高める方法の2つ目は「参照枠」です。Flame of Referenceと表現されます。
例えば、ある人が「最近、自転車が流行ってるらしい」という(参照枠=脳内のデータベース)を持っていた場合、自転車に乗っている人を見たら「あの人は流行に敏感な人だ」と思い込んでしまうことがあるでしょう。
でも実は、その人は以前から自転車が好きだったのかもしれません。
日常で、そのようなレッテルを貼られてしまうことは少なからずあるのではないでしょうか。
こういった、ある意味バイアスがかかるきっかけでもあり、人間が物事を思考するときに参照する何かを参照枠と言います。
簡単に言えば、今までの経験・知識から参照できる脳内のデータベースのことです。
何かを理解するために、あたかもそれが枠組みであるかのように作用するというものを、参照枠といいます。
参照枠が無いとどうなる?
参照枠がなければ、知らないことについて考えることは無理です。知らないことについて調べることもできません。
例えば、キーワードがわからず、インデックス(=目次)がない状態です。
知らないことへは、質問すらできません。わからないことを聞いてくださいと言われても、一体何がわからないのかすらわからなければ聞けません。クエリがない状態ですね。
参照枠がない事態を避けるには、ティーチャー(=教えてくれる人)が必要です。言い換えると、この段階の人にコーチングしても無駄です。
その人の中から答えを引っ張り出すようなことをコーチングと言います。したがって、この段階で必要なのはコーチングではなくティーチングです。
このため「まずは自分で頑張ってみよう」と奮闘しても、頑張るための中身がないため無駄に終わることになります。
一つの物事を前に進めるためには、参照枠は大きく重要になるでしょう。
解決にあたりがつかないときは参照枠を仕入れよう!
解決するための当たりがつけられないときこそ、参照枠を仕入れる必要があります。
参照枠を仕入れる方法は次の通りです。
①ネットや本で調べる
例えばネットや本で調べるときに、1からしっかり調べて読み込むことは当たり前ですがつらいですね。
それよりも、まずは頭の中に複数の情報をばっと入れてしまうとか、記事を読むときは一気に上から順番に5記事ぐらいクリックしてタブで開いて、1個1個読んで消していく方法なら楽です。
本でも同じです。シントピックリーディングという読み方がありますが、これは一つの分野の本を4冊並べて読むという方法で上記と同じです。
大事なことは、大体重複して書かれています。感覚的に「この辺のこういうことが、この業界のノリなんだな」とか、「こういうキーワードがよく使われるんだな」とか、なんとなくわかっていくことが大事です。
「調べられない」ことが問題です。調べられるようになりさえすれば、後からいくらでも知識は付け足せます。なのでまずはキーワードとして使える言葉・文脈・登場人物などについて知りましょう。
②たくさんの周辺事例を見る
次はたくさんの周辺事例を見ることです。
事例を知れば、その物事のイメージがつきやすくなるため参照枠として有用です。
ただ、イメージできない事例を持っても意味がありません。ありがちですが気をつけてください。
例えば、政治は金の世界らしい、と言われても全然具体的なイメージが湧かないでしょう。このような事例には意味がないです。知ったかぶりの状態ですね。
しっかりイメージができるような事例を仕入れに行きましょう。
③たくさん人の話を聞く
さらに、たくさん人の話を聞くことも参照枠を広げるために効果的です。
人からインデックスをもらった方が早いです。相手も、特にティーチャーの人は聞かれることが役割だったりします。
あまり自分で頑張らず、「あのーすいません、全然意味がわからないので、わかるように、イメージできるように話してもらっていいですか」と聞きましょう。
ティーチャー側の人からしても、「そうか、ごめんごめん」となるだけなので気を使う必要はありません。知らないことについては、質問を生むこともできません。上司側であればむしろ、知らないことは聞きなさいと説教しなければならないかも知れません。
このため、教えてくれる人との出会いそのものも貴重です。つまり友人関係とか仲間ってすごく大切な存在になります。
あなたが何かしら魅力的な人物じゃないと、その人と出会うこともなければ、その人が教えてくれることもないため、ある意味自分自身がブランドとも言えますよね。
そういった関係は社内にあっても普通に良いことですが、社外に持っていたら貴重だと言えます。
社員同士のお付き合いでも仲良い同士の会話内容と「ちょっとあいつむかつくな」同士の内容では角度が変わってしまいます。そこも含めて、やっぱり自分から聞けるような存在がいることは素敵なことです。
このため自分というブランドを、日頃から少し意識していてもいいんじゃないでしょうか。といっても毎日自分磨きを頑張りすぎる必要はありません。
何かを聞きたいときに聞ける人が周りにいないなら、今までの自分を反省することも必要かもしれません。
なので、そもそも人に聞けるようにしとこうねという考え方は、結構重要だと思います。
クイズ:なぜ経営者は従業員よりも物知りなのか?
ここでクイズです。
なぜ、経営者の方は従業員よりも物知りなのでしょうか?
次のような答えが挙げられるでしょうか。
情報を得られる機会が多いから
情報を知るための人脈がある
自分の中でルートを確立しており、例えば経営者層に仲間のネットワークがあり、そこから情報が回ってくる
より一つのものを極めたいから経営者に回っている
上記も、その通りだと思いますが、僕の答えは割とシンプルで、いっぱい営業を受けているからです。
いっぱい営業を受けると、他社の事例をいっぱい聞くんです。
営業が来ると、この商品がどんな効果だとか、他社とどう違うとか、自分たちはどんな会社なのか、逆にウチのことどうやって知ったの、という話を聞くことになり、回を重ねればどんどん蓄積されていきます。
若くして経営者になる方はもともと知識を持っていることもありますが、そうでない人も経営者として中年ぐらいになってくると、かなりの営業を場数として踏み、いろいろ知ってる人になれているわけです。
「あの辺の解釈はこうじゃないか」みたいに当たりがつけられるようになります。正解とか不正解というよりかは、物事に詳しくなる方が結構多いです。
逆に言えば、営業をいっぱい受けていれば参照枠が多いことになります。
経営者はねだって営業を受けるわけではありません。情報を向こうが勝手に持ってきてくれるから持っている訳です。もちろん自分で取り入れる人もいます。
しかしながら多くの経営者は営業を受け入れているうちに、いつの間にかいろんな情報が仕入れられているのです。
経営者でもそうではなくても、参照枠を持つことが非常に重要です。
余談ですが、僕はこの前生まれて初めてストリップに行きました。ストリップとは、女の方が脱いで踊る場所です。
行った理由は、僕の経営の仲間が「ストリップはめっちゃ感動するよ」とおすすめしてきたからです。特に浅草のロック座はすごいらしいと。
ちょうど最近公開された、ビートたけしの自伝的な映画である「浅草キッド」の舞台もロック座でした。これもあり行ってみようかという気持ちになり、拝見しましたが、本当にすごかったんです。
全然、性的な要素はありませんでした。僕は感動まではできなかったかも知れませんが、新しい参照枠ができたな、という手応えは確実にありました。
ストリップは、女の方がかっこよく輝ける場でした。そのため、今の若い子たちが見に行けば、普通にAKBに憧れるのと同じ感覚が得られるはずです。
こういったことも体験したからこそわかるものです。だからこそ話を耳に入れるようにした方がいいように思えるのです。
◆方法3:優先度付け
問題解決能力を高める3つの方法についてこれまでの章では解説してきました。最後となる3つ目は「優先度付け」です。
優先度付けのコツは引き算!
優先度付けのコツは引き算です。「全部やろう」とすると足し算になってしまいます。
そこで上の方が下の方に対して、高い優先度のタスクを減らしてあげるために、何を引いてあげるかが大事になります。
全体像を明確にしてチームに共有すること!
2つ目のコツは全体像を明確にして、チームに共有することです。この部分を怠ると、優先度設計ができません。
現場の方はタスクだけ振られているだけなので、そのタスク一つひとつの優先度の設定がわからない状態です。言われないとわかりません。
意思決定権者は、全体を見ているからタスク優先度の話ができるのです。
第2章で触れた、意思決定権者が持つ課題(イシュー)、現場の方が持つタスクや問題(プロブレム)の考え方と同じです。前提としてそもそもそれぞれロールを持っているため、限界があるのです。お互いの役割を理解し合わないといけません。
ありがちなのが、意思決定権者の立場がなんとなく高いから、ただただ従うままであるなどでしょうか。実は「お前の意思決定が弱いから、俺に迷惑かかっとんじゃ」「お前が決めないから動けないんだ」ぐらいのことを現場の方は意思決定権者に対して、ロール的には申し出ても良いのです。
逆にそう言われたほうが、頼られている感じがして上の人にとっては嬉しいはずです。言ってくる人がほぼいないことが常となってしまっていることも多々あります。
ほか、優先度の取捨選択、期限設定に対しコンセンサスが取れていることも重要です。
僕のグループ企業でも、みんな適当に守る気もない期限のタスクをツールに放り込んでいくのが常態化していると思います。それでは全然意味がないんです。
第1章のとあるウェブディレクターStarさんの相談事例にもありましたが、「自社タスクの期限がどうしても伸び、外部クライアントからの案件が優先される」ことも同じです。
要は後回しにされるタスクの期限設定が意味を成していないのです。
Starさんの立場で期限設定を成していくのは難しいです。そこで上司が「絶対これをやれ」と言えば、Starさんは指示に従うだけなのでわかりやすいですよね。
もし期限が守れなさそうであれば、ヘルプを出すようになるでしょう。
タスク実行、期限をつくるといった意味づけができる、権力を持った稀有な存在が上司とかリーダーです。その権力をうまく行使、あるいは行使を要請できるような環境づくりのために話し合うなどして、しっかりと関係を築くことが大事かなと思います。
自分のことは後回しになりがちなので他人を使う
「自分のこと」は後回しになりがちです。
このため、自分のタスクを片付けるためにこそ他人の力を使うことも実は有効です。
例えば、コンサルタントは人の問題を解決することが得意ですが、自分の問題を解決することが苦手だったりする人が結構多いです。
コンサルタントに限らず、そういった各領域に共通すると思います。理由は、自分を客観視することはなかなか難しいためです。
そういう時に人の力を借りても良いのではないでしょうか。
経営者に限りませんが、例えば自社ホームページの製作について内心では別に今月中に完成しなくていいと思ってても、それをそのまま言ってしまうと流れてしまうから、もう誰かに任命してしまえば、先程の通り権力がいい形で働きます。
もしくは自分にとってちょっと遅れがちのタスクがあったら、自分に対する良いプレッシャーを持っている相手に渡すことで、いい意味で相互依存の関係が生まれるでしょう。
このように他者に任せることも一つのテクニックだと思います。
【第3章】起業家の歩み〜真なる自己解決能力とは?〜
第3章では「真の自己解決能力とは何か?」について解説します。
実は起業家とは、何も見えない暗闇でとにかく次の一手を探しながら事業を進めており、この行動こそが自己解決に役立っています。
広い意味では人間誰しも同じことが言えます。なにもわからないなりに0を1にしてきたからこそ、誰もがそこにいるわけです。
そこで、暗闇で石を投げ、次の道をどのように探し、フィードバックを得ていくかについて起業家の視点から解説します。
真なる自己解決力とは?
これまで話してきた内容は、上司と部下みたいな組織的な話でした。
かねて僕は自社グループ企業の代表たちから、問題解決力を高めるにはどうすれば良いのかとか、モデル化について解説を頼まれたこともあり、今回のようなテーマでお話をしているのですが、ここで0から1を生み出す人について考えたいと思います。
読者の皆さんも、ベンチャー企業で働いていらっしゃる方が多いことと思います。このため、自分が雇われている、サラリーマンである、というような感覚はあまり持ち得ていないのではないでしょうか。
そういった場合、所属しているだけでほぼ経営幹部的な行動をしているはずであるため、別に経営者じゃなくても、新しいことを始めよと求められがちです。
そこで本章では少しモードを変えて、起業家とはどんな感じなのか、真なる自己解決能力とは?というテーマでお話します。
まず、暗闇があると思ってください。洞窟でもいいですね。とにかく暗くて何があるのか一切わかりません。
人生も同じではないでしょうか。生まれたときにここがどこかわからないけど、理由はわからないけど親しくしてくれる人がいるから次第に愛着を持って「お母さん」と呼び始めます。
エヴァンゲリオンもそういった話でした。ある日よくわからない使徒に襲われ、なんだこれはと言いながら話が進んでいきます。使徒が何者か、なぜ生まれたのかというような説明はないわけです。
ただただ使徒が襲ってきて、怖い、やられてしまう、人が死んでいく、使徒に対抗しないといけない……そういうところからいきなりストーリーが進んでいく様子は、人生と同じです。
暗闇が始まったら、とりあえず石を投げてみましょう。なにかに当たって音がしたら、その方向には何かがあるとわかりました。
次は、逆方向にまた石を投げます。するとまたすぐ何かにあたり、最初の投擲よりも近い感じがしました。
近いならそこに行こうと思い、とりあえず移動してみました。すると誰かにぶつかります。
とりあえず話してみました。「何してんの?」でもなんでもいいです。
すると、「この洞窟にエメラルドを取りに来た」と話してくれました。この洞窟にはエメラルドがあるのだとわかりましたね。いい話が聞けました。
とりあえず乗っかってみます。「じゃあ手伝わせてよ」「いいよ、もうすぐ仲間も来る」と、よくわからないうちにある団体ができました。
そして3年後、エメラルド専門会社になりました。
読者の皆さんは、なんじゃそりゃと思われたかもしれません。しかしながら「起業」とはこのレベルのお話なのです。
昨今のスタートアップ系の方々は真っ当な信念をお話されることがあり、どうしてもそういった例が目立つことと思いますが、ほとんどは全員、「気づいたらそこに立ってた」からそこにいるのです。人生とはまさにそういうものです。
大きな夢を持っているから、そのために物知りになって経営者としてもやっていけているんじゃないか?という目で役員たちをご覧になる方も僕の社内にはいました。
そういう人ももしかしたら100人に1人はいるかもしれませんが、99人はそうではない。ただ前に向かって歩いていたら、たまたまそこにいたという感じの人たちです。
言い換えると「人生、何が起こるかわからないからこそ、まず暗闇で一発目の石を投げて、仮説を持って次を歩めるか?」ということです。
逆に言えば、ポイントはこれだけです。
とりあえず石を投げてみて、そのフィードバックを得て次を歩むことができるかどうかが重要!
これまで見てきたように真なる自己解決能力とは、とりあえず石を投げてみて、そのフィードバックを得て次に歩むことができるかどうかに尽きます。
起業家としての力、0を1にする力とも言えるでしょう。
石を投げるにも、勇気が必要です。石を投げる前に立ち止まったり、考えたりしてしまうものです。
それでも石を投げる力がある人は起業の道が向いています。「石投げ力」がない人は、もしかしたら意思決定側ではなく、作業側でしっかり活躍するロールが向いているかも知れません。
全員が石を投げられる側に行かなければいけないということはありません。ただ、新規事業開発とかがしたいのであれば、上記のような力が問われます。
「向いている、向いてない」を、しっかり踏まえて、自分をアサインする場所を決めましょう。あるいは管理側ならば、どういう人材のアサインをするのか考える場合にこの思考法が重要です。
とりあえず石を投げ、次のフィードバックを得て、次へ歩むというこの一連のプロセスこそが、課題選定と問題解決に対して同時に意思決定しているのです。
新規事業は、何をするにしても自分で考えなければなりません。課題・問題が決まっていることはありませんし、質問できる相手もいなければ手順も決まっていません。
例えば下北沢でカフェを開きたい場合、まず儲ける必要があるのか、下北らしいおしゃれさだけが売りなのか、とあらゆる課題・問題が発生します。周りの人は何をすればいいのかもわかりません。まさに0を1にしています。
しかしながら、僕は「それこそがそもそも人生だろ」と考えます。
5歳ぐらいのときから、今の人生をイメージして生きてきた方なんていないはずです。目の前の突発的なことにいろいろ反応をしてきただけではないでしょうか。そしてそれは決して戦略的なものではなかったはず。
目の前のことに反応して、いろいろフィードバックを受けながら歩んできた結果、ちょっと賢くなれたからこそ、今この場に立てています。
このように職業的に上記の行動を起こしているのが起業家であり、小さい規模で言えば私達誰もが片足をつっこんでいます。
事業を始めたら、先程の洞窟の話みたいに、わけのわからないことが起こるわけです。
前章までのご相談にもあったように、盆栽や植木のブランドを監修している部署が僕の関わるグループには今でこそ存在しますが、もともとは赤ちゃん向けアパレルブランドの買収をどうするかとして立ち上がった企業でした。
何が起こるかわかりませんが、ちゃんと次なる仮説を持って歩んでみて、フィードバックを得ましょう。
一発目の石からうまくいくはずはありません。さらに次、次の手と進むことこそが、真なる問題解決能力です。
【最終章】自己解決能力を高めるために重要なこと
ここまで、自己解決能力の高め方というテーマで解説してきましたが、自己解決能力を高めるためには、次の点を意識し、実践してみてください。
最後に、これは余談になりますが、僕が自身のフィールドエックスグループの代表たちに裏技として紹介した、自己解決能力を高めるある裏技があります。
それは「困ったら林に聞こう」です。
ある一社の代表に対し、その社員たちが言いづらいことがあったとします。さらにその代表者も、社員に対して言いづらいことを持っていたとします。
その場合、両方の立場から僕に「こんな悩みがあって……」と言えるのです。言ってしまえば「何でもチクれる」のです。まさに何でも聞ける環境が作れている状態です。
僕らは、このような環境を意識的・戦略的に持ってるという強みがあります。そのために僕は常に弱い者の味方でいようと思っており、自分のグループでもし上に文句があるときはぜひ僕に言ってくださいと言っています。
もちろん上の立場の人間も同じです。
このように、起きた問題に対して「ただやる」、または「ただ、やれと指示する」のではなく、起きた問題を課題(イシュー)と問題(プロブレム)に切り分け、解決すべき人間が解決していくような構造の、環境・組織をいかに戦略的に構築するかが、関わる1人ひとりの自己解決能力を高める事にも大きく影響してきます。
もし「自己解決能力」「問題解決」という事で悩んでいるようであれば、ぜひ実践してみてはいかがでしょうか。
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