46歳からの読書【失われた時を求めて】

先日読んだ本には作品の紹介や引用が多くされていて、幾つか読んでみたいなと思える本があった。

失われた時を求めて₂ マルセル・プルースト

紅茶に浸したマドレーヌの匂いによって呼び覚まされた幼少期の記憶をつづられるその色彩に溢れた叙述は、複雑で多層的で読む者を一人の人生を追体験させていく。
その主人公の思考に幼少期の日々や、社交界での無為で華麗な生活に共感できないまでも没入させるものがある。
私はどうにも鼻が利かないタイプなので、マドレーヌの匂いによって記憶が蘇ると言ってもピンとはこない。しかし思えば多くの作品で匂いによって記憶が呼び覚まされている。嗅覚と記憶は結びつきやすいという話を、ああそんなものなんだなと思っていたが、何のことはないこの作品からの影響なのだなと思い当たった。
となると、それが科学的な根拠があるものかも怪しく思えてくる。よくよく考えれば、匂いと言うのは客観的なものだが、匂いを嗅ぐのは主観であり、その主観により、過去の記憶を呼び覚まされると言うのも如何にも主観的である。実験もいくつか可能の様に思えるが、それはあくまで短期記憶の類で、幼少期のような長く古い記憶など実験のしようがない。

無意志的記憶に導かれるまま紡がれる物語だが、思えば私自身も多くの無意志的記憶を持っているはずだ。大切な思い出、ズッ友、多くがその場限りの物だとは思いたくはないが、残念ならが大半を忘れ去ってしまった。今の私の生活や仕事にとっては記憶しておくほどの価値のないものになってしまったのかもしれない。自分もいつの日か紅茶に浸したマドレーヌによって幼少の記憶を呼び覚まされることを期待せずにはいられない。
2〈未〉○


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