見出し画像

サイン チョン ジュセヨ

「サイン チョン ジュセヨ」
Duolingoという外国語学習アプリで韓国語の勉強をしているとよく出てくる言葉で「サインをください」という意味。推しにサインをねだる時に使えるフレーズということなのか。ぼくには推しはいないが、今朝もまたリビングでひとりスマホに向かって「サイン チョン ジュセヨ」を連呼する。

サインといえば野球のサインボールを思い出す。実家には原辰徳のレプリカサインボールと、姉の母校が甲子園に出場したときに、姉が憧れの先輩にもらったサインボールが並んで飾ってある。今となっては老夫婦しか住んでいない家の本棚に、自分のサインボールが飾ってあるなどとは、当時一塁を守っていたその先輩、1ミリも想像できないだろう。ぼくは実家に帰るたびにその2つのサインボールの生存を確認する。先輩、あなたの青春のかけらがここにあります。

サインをもらってうれしいという感覚はぼくにはない。と思っていたのだが、そんなぼくでも持っていた。有名人のサイン。楳図かずお、森山大道、谷川俊太郎、柴田元幸、覚えているだけでも4人。このうち「サイン チョン ジュセヨ」と実際に声をかけてサインを書いてもらったのは楳図かずおさんだけ。30年以上前のことで、早朝の吉祥寺の駅だった。すごく優しかった。まことちゃんの「グワシ!!」ポーズまで描いてくれた。あの時のノート、たぶん、クローゼットの奥にあると思います。家宝です。それ以外の3つはすべていわゆるサイン本で、ギャラリーやトークイベントなどで購入したものだ。

最近、サイン本を何冊か仕入れた。いずれも柴田元幸さんのサイン本だ。「天国ではなく、どこかよそで」レベッカ・ブラウン著の刊行記念として、翻訳された柴田さんがサインをしてくださるということで、そのほかの柴田さん翻訳の本にもサインをしていただけたのだ。それとはまた別に、葉々社から出版された「小さな海外文学シリーズ」にも、柴田元幸さんのサイン本があるので、近々ぼくの棚に並べるつもりだ。

同じタイミングで小原晩さんが自費出版されている「こで唐揚げ弁当を食べないでください」も3冊届いた。開梱して中の本を手にしつつ、どうせならこれもサイン本にしてもらえばよかったなどと考えながら、ページをめくってみた。面白すぎて一気に最後まで読んでしまった。小原晩さんのことが大好きになった。小原さん、サイン チョン ジュセヨ。

本たちが包まれていたプチプチやら紙ゴミをまとめて、マンションのゴミ置き場に捨てに行く。ゴミ置き場から部屋にもどる階段の途中で気づいた。封筒の差出人の名前のところに小原晩さんご本人の名前があったのだ。あれは、小原晩さんのサインなのでは! 慌ててゴミ置き場に走る。ああ、何ということでしょう! 宛先にはご丁寧にぼくの名前まである。家宝がまたひとつ増えた。


いいなと思ったら応援しよう!