「たとえ」により理解する
授業でものごとを説明するために、「たとえ」を使うケースがある。「たとえ」と聞くと、「例えば・・・・(具体例の列挙)」と「○○に喩えると・・・・(類似・共通点)」の両方が頭に浮かぶが、後者の「喩え(比喩)」について書く。
工学の学問(数学、力学)等を教える際に、込み入った概念、全く新しい概念などは、理解してもらうことは難しい。初学者にとって細かいことは二の次で、どのような概念なのかの概略を掴むことができれば、続いて理解しやすいと強く思う。そういったときに「喩え」を使うケースがある。では、喩える際にどういうことに気をつけると良いのか、どういう喩えであると理解しやすいのかについて普段考えていることを整理したい。
喩えに必要なこと
教えたいものごと(事象A:相手が知らないこと)と、喩えられたものごと(事象B:相手が既に知っていること)が、抽象化すると共に同じであることが大前提である。
その際に、相手が喩えられたものごと(事象B)を理解していることが必要であり、学校においては教える対象者全員(クラス、受講者)がそれを知っている。
喩えられたものごと(事象B)について、一体どういう概念を取り上げたのか明確である。
(授業の説明に関しては上記2つになるが、行動変容を起こさせるときに使う場合には)個人として納得できる、共感できるものごとに喩えると効果的である。
1については、説明者としては、わかりやすい喩えを探す際に身近なものに喩えがちである。一方、意外性があっても面白く、印象に残る。逆に、面白くなくても、既に学習した単元の事象との共通点などを示すのも、復習になったり、知識の体系化にも繋がるため、教え方のバリエーションが広がる。
難しさもある。一般にハードルを下げようとして、テレビ、スポーツ、アニメ、流行の芸能関連、等を選ぼうとするが、そもそも現在若者共通のマスメディアは存在せず、趣味興味も多様な中で共通項を見つけるのは至難の業である。喩えたものごとを学生が知らなければ、意味は無い。教える方としては、共通の話題を確保することに不断の努力が必要である。留学生等もいれば、いわゆる日本の常識(例えばラジオ体操)のようなことを喩えにすることも、難しいかもしれない。そもそも全員が理解できる喩えしか使ってはいけないことはないが、どれだけの人に響いたのかは常に検証が必要。
2については、喩えられたことは知っていても、一体どのような概念が共通なのかを理解できなければ意味がない。「万有引力の法則は、うどんと同じである」と説明されても一体どの部分が同じなのかがわからない。論点が明確でない。
類比論法
3に関して。
「似ているものを持ち出して自分の主張に説得力を持たせるのが類比論法。(NHK高校講座 ロンリのちから(9)類比論法)」「類比論法に対しては、共通するところと異なるところを的確に捉えて、その類比が成り立っているかどうかを見きわめなければいけない(同上)」(テキスト版へのリンクを貼ったが、動画版もよい教育教材なので是非見ていただきたい)
高等教育での「あるある」について、類比論法の好適事例を以下に引用する。
「4回までなら欠席してOKという誤った認識を持つ学生には、「ネトフリやアマプラで配信されるドラマのうち、第一話と最終話以外ランダムで4話分閲覧不可になるドラマがあったらストーリー全体を理解できると思う?」と聞くと「1話でも無理ですね」と返ってくる。これ初回の授業で使って下さい。」(午後1:53 · 2022年3月31日·Twitter by @dicekk)(筆者注:本人の直後の訂正ツイート(欠席しないで→欠席して)を反映済み。太字は著者。)
高等教育に携わっている者として、上記のツイートには激しく同意する。これを受けて、「1コマの授業中において途中寝たり別のことを考えて授業を聞けていないことに関して、コミックの1話のうち1ページ破り捨てられていたら内容が理解できる?」とでも喩えてみたい。
類比論法は、「それはそれ、これはこれ」と反論できることが多いため相手を説得するのには使いづらいが、ある人に行動を起こさせる駆動力にはなると思う。あなたのこだわりは何?、ブレてない?、という問いかけは、結構ボディーブローのように感じる人も多いのではないか。自分が知っている知識、自分が思考・行動していること、に似ている概念のものは受け入れやすく、受け入れないといけない気分にさせる。
では、私が工学の授業において使う具体的な喩えについて、どのような点にこだわって考えたのかについては、後日解説してみたい。
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