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辛子レンコンのボツリヌス食中毒は、レンコンではなく辛子が原因だった

熊本県の水俣市に行き、熊本市で辛子レンコンをお土産に買って、椎葉村の実家に帰りました。

父と辛子レンコンを食べながら、昔、私が医学生だったときのことを思い出しました。

1984年に、九州一円で辛子レンコンによるボツリヌス集団食中毒が発生したのです。

ボツリヌス菌は、土の中に棲んでいて、肉や野菜に付着し、酸素のない状態で増殖して毒素を出します。

この毒素は猛毒で、筋肉の運動を麻痺させます。
呼吸筋が麻痺すると呼吸困難となって死亡することがある、恐ろしい菌です。

水俣の海

この事件は、宮崎医大(現宮崎大学医学部)の研修医だった女医さんが、患者さんの「物が二重に見える」という症状から、ボツリヌスではと疑ったことから発覚しました。

宮崎医大の研修医は、学生の頃の微生物学の講義で習ったことを覚えていた
のです。

似たような症状を呈する患者さんに、何を食べたか調べたところ、共通の食材として辛子レンコンが浮上します。

宮崎県からの情報により、同じ業者の辛子レンコンを調べたところ、ボツリヌス菌が検出されました。

その後の九州各県の調査で、辛子レンコンにより11人が亡くなっていたことが判明しました。

ベテランの神経内科医は、患者さんに脳卒中や重症筋無力症、ギラン・バレー症候群といった診断
をしていました。

基本に忠実な研修医の方が、きちんと所見をとって、信頼できる医療を行っていたと言えます。

当初、洗浄が不十分なレンコンに付着したボツリヌスが原因だと想定されていましたが、事実は、からしの方が汚染されていました。

レンコンはその色のとおりシロで、無実でした。

一番怪しいものが、実は犯人ではないというところが、推理小説のようです。

この公衆衛生のエピソードを通じて、基本が大事であり、予断はいけないという教訓を得ることができます。

昔、グルメ漫画のはしりで、「美味しんぼ」という漫画ありました。

原作は雁屋哲さん、作画は花吹アキラさんで、ビックコミックスピリッツで連載されました。

単行本は100巻を超え、テレビのアニメにもなったので、覚えておられる方も多いと思います。

ある日、厚生省の母子保健課に週刊誌の記者が訪ねてきました。

連載中の「美味しんぼ」で乳児の離乳食として蜂蜜を与えるシーンがあり、読者から乳児に蜂蜜を与えてはいけないのではないかとクレームが相次いでいる。

厚生省はどのように指導をしているのか、というものでした。

実は、読者からのクレームを原作者に伝えたところ、「自分は蜂蜜で子育てをした。何が悪いのか!」と逆ギレされたとのこと。

対応したのは、母子保健課のN保健専門官でした。
葉酸の課長通知を出したときの管理栄養士です。

厚生省の通知を渡して、蜂蜜にはボツリヌス菌の芽胞がまぎれこむ可能性もあり、免疫機能が未発達な1歳未満の赤ちゃんに蜂蜜を与えないように指導しています、という説明をしました。

しばらく後の休日にラーメン屋で週刊誌を見ていたら、美味しんぼの記事が出ていました。

編集者と原作者は、読者に対して謝罪し、蜂蜜を離乳食にした回の漫画は単行本にする際には掲載しないことにしたとのこと。

美味しんぼの蜂蜜の話は、今では幻の回となっています。
ボツリヌスで「没」になったことになります。

教訓は、ボツリヌスは、大人気漫画の連載をも吹き飛ばすほど恐ろしいということでしょうか。


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