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トラトラトラ!温暖化機動部隊から発進したデング熱航空隊に奇襲されてはいけない

我が国で蚊が媒介するウイルスで、日本脳炎ウイルスに匹敵するものとして注意すべきものは、デング熱ウイルスです。

幸いなことに、我が国にはデング熱ウイルスは、定着していませんが、媒介するヒトスジシマカはブーンブーンと飛んでいます。

つまり、巡航ミサイルはあるのですが、搭載するデング熱ウイルスがないだけです。

しかし、デング熱ウイルスを保有している人が国外からやってきて、その人をヒトスジシマカが刺すと、デング熱ウイルスが搭載され、瞬く間に広がっていきます。

2014年の夏には、約70年ぶりに国内感染事例が発生しました。
患者総数は162人に達しました。

国内感染例の大部分は、東京の都立代々木公園への訪問歴があり、公園周辺のヒトスジシマカに刺されたことが原因だと推定されています。

日本脳炎ウイルスは、豚が「増幅動物」となります。

感染した豚の体内でウイルスが増殖して、血液中にウイルスが出てきます。それをコガタアカイエカが吸血すると蚊の体内にウイルスが運ばれ、ウイルスを保有する蚊が、人を吸血すると感染させてしまうのです。

デング熱ウイルスは、人が増幅動物となります。
デング熱ウイルスを持ったヒトスジシマカが人を吸血すると、その人の体内でウイルスが増殖します。

これをヒトスジシマカが吸血するとその体内にウイルスが運ばれ、ウイルスを保有した蚊が、人を吸血すると感染させます。

デング熱ウイルスを搭載した巡航ミサイルであるヒトスジシマカに刺されたら、約50%が発症すると言われています。
治療法やワクチンはありません。対処療法のみです。

症状は、発熱、発疹、頭痛、筋肉痛、関節痛、嘔吐、下痢、後眼窩痛(目の奥の痛み)で、通常は一週間前後の経過で回復します。

重症なものは、デング出血熱と言われ、全身から出血して死亡することがあります。

デング熱は日本脳炎と違って、死ぬことはそれほどないのが救いです。

ヒトスジシマカは、昼間の野外が好きです。
家の中に入ってくることは、あまりありません。
公園などの茂みで、刺されます。

一方、日本脳炎ウイルスを媒介するコガタアカイエカは、漢字に変換すれば「小型赤家蚊」という名前のとおり、家の中に入ってきます。

活動するのは、夕方から夜。
夜、家に寝ているときに刺されます。

そのため寝るときの網戸や蚊取り線香が重要です。
こうした蚊の性格を把握していると予防もできます。


さて、デング熱の発生で、代々木公園の近くにある新宿御苑や明治神宮も閉鎖されました。

ある日、環境省の部長から電話がありました。

環境省が所管している新宿御苑で蚊のトラップをしかけて、たくさん蚊をとりましたが、蚊のウイルス検査が滞っているのでなんとかしてください、とのこと。

検査をやっているのは、厚生労働省の国立感染症研究所でした。
当時、私は厚生科学課長で、国立感染症研究所の担当課長でした。

「なんとか早めに検査してくれませんか、みんな新宿御苑が再開するのを楽しみに待っているのです」

担当職員に聞いたところ、東京都中の公園の蚊のデング熱ウイルス検査が国立感染症研究所に集中しているということでした。

血を吸うのがメスで、トラップで採集した蚊をメスとオスに分けることができる「蚊学者」が2人しかいないと言っていました。

ひよこの雄雌を見分ける達人はたくさんいますが、ヒトスジシマカの雄と雌を分けられる人はそういないのです

成田空港検疫所と横浜検疫所にも、蚊の達人がいるという連絡がありました。

いろいろやりくりして、新宿御苑の蚊からウイルス保有の蚊がいないことを検査で確認して、再開となりました。

ちなみに、成田空港では、日本に到着した飛行機の中に乗り込んで、網で蚊を採取してウイルスの有無を調べています。

現在の日本の冬は、蚊は成虫のまま越すことはできません。

しかし、温暖化が進んで、ヒトスジシマカが成虫のまま冬を越すようになると、デング熱が日本に定着することになるかもしれません。

温暖化は、さまざまな感染症のリスクを上げるのです。

ヒトスジシマカの英語名は、タイガーモスキート。

つまりトラ蚊です。

フランスは、有史以来、蚊由来の病気はない国でした。
ところが、トラ蚊が北上した現在、いつデング熱が発生してもおかしくない国となっています。

トラトラトラ、我レ奇襲ニ成功セリ!

温暖化機動部隊の空母から発進したデング熱航空隊にこのように打電されないために、日頃の警戒を怠ってはなりません。

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