非当事者研究その4
「非当事者」についてもう少し考えてみます。「非当事者」という言葉が言わんとすることは、「あなたは当事者でない」と拒否するだけにとどまりません。「当事者」でなければ何者なのか。この問いに障害者運動は「介助者手足論」で応えています。
「介助者手足論」とは、「支援者は、たとえ善意であっても先回りせず、障害者の指示に忠実に従う手足に徹するべき」(『当事者研究』)という考え方です。こうした考え方が出てきた背景にもやはり障害者と介助者との学歴などの非対称性から、自分で自分のことを決められない、あるいは否定されるといったことがありました。ここには手足に徹することもそうですが、まずは口を出さないでほしいという拒否が重要であることを確認できます。
その上で、「介助者手足論」から「非当事者」を考えたとき、そこから見えるのは、「非当事者」は「被統治者」を含むということです。したがって「当事者/非当事者」という区別は、「統治者/被統治者」という区別と同じと言えます。
「当事者」という言葉の登場によって、「統治する者」と「統治される者」との一致が回復したかに見えましたが、そこには「当事者」が「統治する者」、「非当事者」が「統治される者」という別の主体と客体の関係が生まれていました。
「非当事者」は「当事者でない」だけでなく、「当事者」の手段でもある。こう書くと、理由はあるにせよ、なかなか理不尽で、「当事者」のご都合主義的な考え方にも見えます。これを解決するのは簡単で、「当事者」という言葉を使わなければ、「非当事者」という言葉は存在しません。しかし「当事者」が人口に膾炙し、なによりもこの言葉を知ることで、力を得た人もいます。そうであれば、方法はただ一つ、「非当事者」に代わる言葉、「当事者」に関わる人を肯定する言葉を探究すること、これに尽きます。