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感情のドローイング

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感情を詰め込んだ魔法瓶。いつか自分の武器を持つために。
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#旅する日本語

萌芽の帰り道。

萌芽の帰り道。

こだまが駅を出発する。景色も過去もすべてを振り切るように、速度を上げる。

夕日を浴びる富士の麓に目を凝らす。一時間前に検査を受けていたがんセンターが見えた。
初めて三島駅へと降り立ったのは、もう十年も前。富士の稜線が新鮮に映ったのは、最初の数年だけ。長い長い通院生活で、三島の町も、駅のお土産物も、富士に掛かる雲の形さえ、見飽きてしまった。

この町にもう訪れる必要がないのかと思うと、奇妙な気分だ

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