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地図のない道

第2話  あの日

弥生が「お母さん、お母さん」と呼んだが、意識もなく冷たくなった手は、何故か動かなかった。
翔大は「おぎゃおぎゃ」と泣きながら、まだ小さい身体を震わせていた。
あれから父親は行方不明で、保と言う名前だった。
弥生は、あれから親戚の花苗ばあちゃんと一緒に暮らしていた。
花苗ばあちゃんは、身体が弱くて弥生は、いつも翔大の面倒を見て、背中に抱っこ紐を絞めていた。
おぎゃおぎゃと泣くたびに、オムツを取り替えたり、ミルクを飲ませたり、暇があればバイトでお金を少しずつ貯める日々、貯めても、お金がどんどん家のお金で消えて行く。
弥生は「こんな時、母親が居てくれたら良いのに」といつも小学校の頃は、友達の家に遊びに行く子の話を聞いて笑っている子を羨ましく思って居た。
弥生は「良いな?私も面倒な弟のお世話なんてしないで、友達の家に遊びに行きたいな」と思う様になって居た。
ある日、花苗ばあちゃんが「私は、もう大丈夫だから、今度からは何処か託児所に預けて翔大を少しだけ見てもらう様にしましょう」と笑顔で弥生に返事を返した。
弥生は「良いの?じゃ、面倒をお願いします」と花苗ばあちゃんに翔大を任せたのだが、花苗ばあちゃんは静かにその日、息を引き取った。
弥生は、学校に翔大を連れて、授業を受ける事になるが、夜中も夜泣きで起こされるので授業中に眠りについてしまう事もあった。
先生から「弥生さん。授業中寝られても困ります。翔大くんを看てくれる人は居ないの?」と弥生に話し掛けた。
弥生が「それが親戚のおばあちゃんも、お母さんも、お父さんも居ないんです。誰も頼る人が居なくて」と先生に相談をした。
先生が「あら?それだったら、私の親戚の親が子供居ないみたいだから、そちらで面倒を見て貰えるかも知れないわ」と弥生に話をした。
弥生は「ありがとうございます。もし、そうして貰えるなら宜しくお願いします」と翔大の事を頼んだ。
翔大は、それからスクスク育ち、先生の息子の風太と絡むようになっていった。


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