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秋の夜の匂いとタバコはあの恋の匂い#3

「渡邉!」

ポンと肩を叩かれ、振り返ると玉井がよぉうみたいなポーズをとっていた。

「珍しいやん。授業間に合ってるやん」

朝の出来事を話す。

「なるほど、それで今日は授業に間に合ってるってこと?ほんじゃあ明日も間に合うように来なあかんなぁ」
「使命感しかないで」
「せやんなぁ、非常に可哀想な話やけど、明日の一限は小テストや」
「え?」
「昼飯奢ってくれたらノートは見せてあげよう」
「マジで明日テストなん?」
「嘘ついてどうするん?」
「幸せを奪う」
「そんなことしても得せーへんし、ノート見せて要らんの?」
「見せて欲しい」
「ほんなら今日のお昼はトンカツやな」
「玉井様有り難き幸せでございます。」

僕はテストより、明日行けないことをどうやって彼女に伝えるかを考えているだけで二限が終わった。

「だから連絡先交換しといたら良かったのに」

玉井はトンカツを食べながら言った。

「タイミングと距離感って難しくない?」
「そこまで気が合うなら余裕やん。むしろ聞かへん方が難しいわ」
「テストは優先するこれは絶対や。やけど待ちぼうけさせてしまうのはなぁ」
「今から学校中探し回る?」

玉井は笑いながら言った。

「それはキモイやろ。まぁ多分何やってもキモイな」
「あの子のバイト先は?」
「あー。弁当買いにか?もしかしたらやんな。行ってみる価値はあるかもしれん。」

学校が終わり、僕はバイトを終わらせ、電車に乗る。
おらんかったらどうしよう。
しか思いつかない。
気づいたら降りる駅だった。
電車を降り、改札を出る。
駅前のコンビニ。
初めて会った時はもっと早い時間だったか。レジには誰もいない。店内にも店員らしき人はいなかったので、奥にいるんだろうと思い、とりあえずタバコを買うことにした。

「すいません」

ガラーっとスイングドアが開き、奥からおじさん定員が出てきた。

「あ、マルボロのブラックメンソールの8ミリ下さい」

と買い物は終わり、店を出て脇にある灰皿の所でタバコに火を着ける。

「ゲームセットかぁ。」

独り言が出てしまった。
とそこへバイクのエンジン音。
イヤホン外でも分かる馬鹿でかい音。
でもすぐに消えた。

「ケータくん?」

バイクを見ると友梨ちゃんだった。

「え?ドラスタはカッコよすぎやろ」
「そだよ。お兄ちゃんのやけど、免停になったらしくてその間乗らせてもらってる。バイトさっき終わって今から帰るとこ」
「お兄ちゃんの影響力すご。」
「アメリカンってバイクって感じするやん?」
「俺は乗るならネイキッドが良いな」
「ケータくんもバイク乗るの?」
「免許はあるけどバイクは無い」
「へー!乗ってみる?私後ろに乗るし」
「メットあるん?」
「あるよ?ほら」

と友梨ちゃんはヘルメットを渡してくれた。
免許取ってからもうかれこれ一年以上、それもMT車なんて乗れるかなと不安が過ぎったが、乗ってみたいと友梨ちゃんとツーリングしてみたいが脳内を支配した。
友梨ちゃんはヘルメットを被り、タンデムステップを出して

「行こう」

とバイクのカギを渡してくれた。
僕もヘルメットを被りバイクに跨った。
バイクにエンジンをかけると友梨ちゃんは後ろに跨った。
夜になっても女の子って何故まだいい匂いがするんだろう不思議だ。

「どこ行くん?」
「ここまっすぐいったとこの川。河原とかいいんじゃない?」
「あの川か!ナイスアイデア」

ギヤをニュートラルから1速に入れ左手のクラッチをゆっくり開く。
半クラ出来たらこっちのもんだ。
クラッチを離して、ギヤを2速に入れる。
秋の夜は風が冷たい。

友梨ちゃんは流石にバイクの後ろに乗りなれているようだ。
信号が黄色に変わりそう。行くべきか止まるべきか。
悩んでいるうちに、黄色に変わりブレーキをかけた。エンストだ。

「あ。」

友梨ちゃんは僕の体にピッタリくっついて体重をかけてきた。
ドキッとした。秋の夜の匂いと友梨ちゃんの匂いが混じりあった匂い。

「ケータくん、上手くやろうなんて思わなくてもいいよ。久しぶりなんでしょ?」
「ありがとう。迷ってたら止まる方がいいな」

と僕はエンジンをかけ直す。
この信号を超えればもうすぐ川に着く。
信号が青に変わりまたバイクを走らせる。
川の堤防にバイクを停め、河原へ降りる階段に2人で座る。

「あ、友梨ちゃん、何か飲む?」
「そうだなぁ。暖かいミルクティー」
「おっけ」

僕は近くの自動販売機であったか~いって書いてあるのを確認してブラックコーヒーとミルクティーを買った。
戻ると、友梨ちゃんはタバコを吸っていた。
隣に腰を降ろし、友梨ちゃんの隣にミルクティーを置いた。

「ありがとう、ケータくん」
「いえいえ」

と言って自分もタバコに火を着ける。
河原のススキが風で揺れる。さすがに秋の夜の河原は寒い。

「コーヒー苦手で飲めないの」
「俺も最近までブラックコーヒーだけ飲めなかったよ」
「じゃあ飲めるようになったんや?」
「うん、1つ大人の階段を登れた」

と半笑いで言った。

「友梨ちゃん明日の一限テストらしくて明日行けないわ」
「そうなん?それはテスト優先して。
ケータくん授業出てないからわからなかったんだよね?」

友梨ちゃんは笑いながら言った。

「おっしゃる通りです。だから今日会えて伝えれて良かった。」
「私待ちぼうけくらうところだったね」
「それは申し訳ないなと思って」
「気にしてくれてありがと。待ちぼうけは待ちぼうけでも良かったけどね」
「そう?」
「明日じゃなくても、あの喫煙所いたらまた会えるやん?」
「授業がある時は行くから、あの喫煙所が無くならない限りはいるよ」
「でしょ?なんかどっか行くと会えるみたいなのいいなぁって思う」
「あー!なんか分かる。そこまで仲良くならなくてもいいけどそこだけでしか会えるだけで楽しいみたいな」
「そー!近くも遠くもなくくらいの距離感」
「踏み込んでいいのか分かりにくいもんね」
「大学になってからほんとそう。すぐに連絡先教えてって言われてめんどくさい」
「めんどくさいのが良い時もあるよ。めんどくさいが自分の壁を超えてくる時」
「恋した時でしょ?」
「なんで分かったん?」
「恋ってめんどくさいもん。総合格闘技みたい」
「総合格闘技って例え方は面白い」

2人で笑った。

僕は友梨ちゃんのバイクで自分の家まで行き、BON JOVIのCDを渡した。

「ありがとう。聴いてみる」

と友梨ちゃんは笑顔でバックパックにCDを入れた。

「気をつけてね。ごめんね。遅くなった上に送ってもらっちゃって、ありがとう」
「ううん、ケータくんも今から一夜漬けでしょ?ちゃんと明日起きるんやでー!じゃあね」

と友梨ちゃんはエンジンをかけてバイクを走らせた。

僕はラジオを聴きながら玉井から手に入れたノートの写しで明日のテスト勉強をしていた。勉強なんて続かないものだ。

ベランダでタバコを吸っていると、ケータイの通知音。メールだ。


ケータくんの言ってた曲めっちゃ良いね!


つづく


ここまで読んでくださいましてありがとうございました。銀杏BOYZの「骨」を聴きながら今回は終わりたいと思います。ぜひ聴いてみて下さい。ではまた。



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