ズミクロンC40mm F2
思わずポチッてしまった。
SUMMICRON-C 40mm F2。ジャンク品とは書いてあったが、画面だとパッと見綺麗だし、まぁ、なんとかなるんじゃね?と。
買ってハズレたこともあまり無いし。
実はずっとライカSLに付ける薄型レンズ、パンケーキレンズを探していて、失った宮崎光学のテッサー35ミリを再び購入したんだけど、個体差なのか、このレンズだけ付け替えるのにエラい力がいる。さらに超薄型なので指を引っ掛かけるスペースが無く、しっかり掴むことができずにレンズのピントリングを端っこまで回しきって引っかかってから、力を入れてぐいっと外す。これはヘリコイドに負荷がかかるので嫌だったのだ。毎回レンズ交換する度に顔を真っ赤にしてレンズ交換をしている。これだとストレスが溜まる。写りは最高なのだが、ちょっと撮影では使えない。でもパンケーキレンズが欲しい。デカくて重いライカSLのボディにコンパクトなレンズでバランスを取ろうとしている。
そこで白羽の矢が立ったのがズミクロンの40ミリ。これもかなりの薄型だし、なにより40ミリというまだ持っていない画角のレンズは魅力的である。いつも撮影には35ミリと50ミリを持っていくが、下手すりゃこれ一本で済むのではないか? というスケベ心もある。
早速検索したら全然ヒットしなかった。探すと出ないものである。
悶々としながら翌日も検索したら、すん、と、このジャンク品が出てきたというワケ。だが、オークションなのですぐに手元に来ない。締切まであと2日もある。とりあえず〝ここまでは出せるな〟という金額を入札した。
しばらくして冷静に考えたら、相場よりは安いけどジャンク品だし、急に要らなくなってきた。高校生みたいに恋が冷めたのだ。さらに後から、値段は高いけど状態の良さげなのが現れた。そっちのがいい。誰か他に落札してくれねーかなぁ、なんて願うようになっていた。
でもそんな時に限って入札してるの俺だけなんだよね。やっぱり入札数ゼロなのは理由があるのよ。みんなちゃーんと見てるのね。で、誰だか知らないけど最終日に1件だけ入札してきて、救世主かと思いきや、5千円だけ勝手に値段吊り上げてさっさと諦めやがった。根性みせろや、あーん。
そして…
おめでとうございます!
あなたが落札者です!
全然めでたくないっちゅーの。“海外の宝くじが当たりました!メール”ぐらいめでたくないわ。でも、まぁ、これで身請けすることは確定なので潔くフィルターでも買っておこうかと調べたさ。そしたらアンタ、フィルターサイズは「シリーズ5.5」っちゅうじゃないの。シリーズ5.5っちゅーたらツシマヤマネコばりの珍種も珍種、今日日見かけたことないで。しかもこのフィルターはネジ込み式じゃないのよ。レンズの上にふわりと乗せてさらに上からレンズフードでカチっと挟むの。つまり、レンズフードが無いとフィルターすらできないの。落札したズミクロンにはレンズフード付いてなかったしヤバってなって、慌てて他に何か策はないのか調べると、このレンズ用の変換リングがライカと関東カメラかどこかで特注で作られた過去があるのね。要するにフード用の間隔が変なネジやまをフィルターの一般的なネジやまの間隔にして、39ミリに変換しましょうってありがたい商品なのよ。
いや、まさかネットに転がってないよねって探したらメルカリにあった。天才的な変態さまがこんなもん出品してました。ただのネジ溝切った39ミリ径の輪っかなのに結構お値段張りました。勉強代です。だからレンズフィルターはお金かけずにマップカメラの無印フィルター。
数日後、ズミクロンC40ミリF2はやってきた。出品者はカメラなんも知らんって感じのおしゃれな名前のリサイクルショップからだった。過剰包装なプチプチを破り、出てきたズミクロンは…
じゅわいよくちゅーるマキに飾ってもおかしくないほどに綺麗なタマだった。
しかも、純正のラバーフードとフロントレンズキャップが付いていた。
これは嬉しい誤算。おしゃれなリサイクルショップさんあざーっす! とりあえず変換リングと39ミリフィルター買っちゃったけどフィルターあるなら無駄になったね。まぁ、パンケーキレンズなのでフードは付けないつもりだからやっぱり変換リングとフィルターの方使うけど。レンズもキズ、クモリ、チリなんて無いじゃんコレ。ほらな、オークションなんてさ、そうそうハズレって無いのよ。
と、思いこんで上機嫌にピントリングを回そうとしたら全然回らない。何かの勘違いかなと思って色々弄ってみたけど全然硬いのよ。しかも、最短距離で固まってるの。コレやっちまったね。完全にアウトです。
本当にジャンク品でした。
渡る世間は鬼ばかり。
まさしくパーツ取りに
お使いくださいですよ。
商品に偽りなし。ちゃんと店側は明記してあったからね。そりゃ安いけど、ピントリング動かないとは思わないじゃん。しかも最短距離でピントリング動きませんって書いてあったら誰も落札しないもんな。だからジャンクで逃げたのか。おしゃれリサイクルめ、やりよるのぉ。
高い高い勉強代ですよ。
どうすりゃ治るんだろ。
一旦バラすか?いやいや素人が無理だって。修理に出す?逆に高いレンズになっちゃうよ。
とりあえず会社に置いてある道具箱からプライヤーを出してみた。ペンチの大きいやつ。プライヤーをレンズマウント部分に挟んで、小林ひとみの乳首のように小さいピントレバーをグッと回した。びくんともしませんよ。さすがレジェンドひとみ。今度はその小さいピントレバーに布を巻いてグッと。
やっぱりびくともしませんね。グッと。あ、グッーーーと。
グッと。グッと。グッと。グッと。グッと。グッと。グッと。グッと。グッと。グッと。グッと。グッと。グッと。グッと。グッと。グッと。グッと。グッと。グッーーーーー…ぬるっ。
え?え?いま少し動いたよね。でも手で回そうとしても全然動かない。もう一回プライヤーで挟んで、ピントレバーに布を巻いて、ひじを左わきからはなさない心がまえで、やや内角をねらい、えぐりこむようにして、グッ…ぬるーっと。
え、え、え、グッ…ぬるぬるぬる。グッぬるぬるぬるぬるぬる。何回も回しているうちに手でも回るようになった。まだ少し硬過ぎるので今度は前に買ってあったレンズ用の柔らかめのヘリコイドグリース#50番を爪楊枝でぬぐって隙間に擦り込んでいく。どんどん滑らかに回るようになった。いい感じ♡。私はヘリコイド硬めが好きななのでこの辺でやめとく。
完全勝利。性格のしつこさが功を奏した。店もここまで強引にはやらなかったんだろうな。
マウント部分にはプライヤーで付けた傷がちょっとだけ残ったが、撮影には問題ない。
さっそくメルカリから変換リングが届く。
とりあえず、全部揃ったので合体した。
せっかくの薄型パンケーキレンズが、変換リングとフィルターで嵩(かさ)を増し、ズマロン35mmと同じ高さになっていた。
そして、これで35mmと50mmレンズを持ち歩かず40mm一本で済むかと思ったらそうはいかず、結局、35mm、40mm、50mmと謎に刻んで持ち歩き、レンズの荷物が増えただけだった。