顧客とつながるブランド
こんにちは、コーイチです。
今回は、世界のアスリートに向けてシューズやアパレルをデザインしているNikeの店舗や戦略を見ていき、今後の日本のメーカーブランドもこのような戦略が増えていくのか、考えていきたいと思います。
1.ストーリーテリングブランド
(出典:NIKE JAPAN youtubeより)
多くのブランドは、商品を売るためにマーケティング活動に取り組んでいますが、私たちの心まで動かすストーリーを持つブランドは少ないと思われます。
「ストーリーテリング」の小売業者は、そのカテゴリーの顔であり、そのブランド自体がカテゴリーのような存在になっています。
「ストーリーテリング」は、ただの商品説明ではなく、よりオーディエンスの主観に寄り添い、顧客にブランドとエモーショナルな繋がりを持たせることを可能にしています。
「ストーリーテリング」は、潜在顧客に物語の主人公になってもらうことで、顧客とのコネクションを作ることを目的としています。
結果的にブランドはターゲット層の注意を引き、それに良い意味でインパクトを与えていけます。
「ストーリーテリング」は、理想やムーブメント、人々の夢と密接に結びついており、顧客と深くつながり、豊かで多様なコンテンツや体験を生むことになります。
Nikeの「Just Do It」はただのキャッチフレーズではなく、「人間の能力を描いたストーリーは、一貫性ある姿勢で語ることができる思想のこと」といいます。
「Just Do It」や、「Believe in something. Even if it means sacrificing everything(何かを信じるよう。何もかもが犠牲になったとしても)」「YOU CAN’T STOP US(私たちを止めることはできない)などがありますが、いずれも普遍的に共感できる考えとなっています。
Nikeは、一貫して深みのある感動的な筋立てを創り出し、顧客の心をがっちりつかんでいます。
同社では、ストーリーができあがると、これに命を吹き込む演じ手・役者を集めてきます。
たとえば、マイケル・ジョーダンの名作CM「Failure」では、試合中に犯した自らのミスや欠点を次々に列挙し、これを克服したからこそ成功したという流れになっています。
そして、オンライン、オフラインを問わず、顧客とのあらゆるタッチポイントで、このストーリーを語り、顧客が自分自身を主人公に重ね合わせるように演出しています。
ポイントは、ブランドであり小売業者でもあるNikeが、シューズを売り込もうとしておらず、人間の能力、忍耐力、偉業などを売り込もうとしていることです。
「ストーリーテリング」のブランドの場合、商品は1つの要素に過ぎず、最大の関心事ではありません。
一番大事なのは、このブランドが人々に語りかけるストーリーを常に刷新し、書き直し、作り変えることにより、顧客とのつながりを維持することにあります。
「ストーリーテリング」のブランドにとって、実店舗は、魅力あふれるストーリーを語るための舞台やスタジオとなります。
店舗は、オンラインかオフラインかを問わず、顧客をストーリーに引き込み、長期にわたって色褪せない関係を盛り上げていくことで、あらゆるチャネルや業態に展開できるようにする役割を果たしています。
(参照:ダグ・スティーブンス著作より)
2.脱ECの戦略
(出典:Demodern youtubeより)
現在アマゾンなどのECモールでは、限られたメーカーの靴、または限られたブランドラインしか売られていません。
これは、昨今の強い訴求力を持つコンシューマーブランドのメーカーが、他社小売りでの販売を次々と解消し、特定の小売りとの連携を強化することで、ブランド力を維持しながら独自の流通経路を拡充してD2C事業を強化するという大きな流行が関係しています。
Nikeは、一部を除いて小売業者にスニーカーを卸す販売モデルを中止し、「Dicks Sporting Goods」や「Foot Lockers」など大手スポーツ用品小売業者にのみスニーカーを卸し、その他は独自のD2C事業に注力することを発表しています。
この方針により、Nikeは消費者のロイヤリティの向上、顧客体験や値段をフルコントロール、 消費者のデータの収集しやすさ、オペレーションや物流の効率化による利益率の向上などのメリットを手に入れました。
Nikeの最高財務責任者のマシュー・フレンズは「2017年に、これからは40の厳選された小売パートナーにリソース、マーケティング、トップ製品を集中させる。という戦略を発表して以来、北米におけるその他一般小売パートナーの数をおよそ30%減らすことができた。」と発表しています。
スポーツ用品大手の「Dicks Sporting Goods」や「Foot Lockers」などの小売業者が、Nikeに「これからも販売を続ける小売店舗」として選ばれているのは、大手が持つ集客力だけではなく、自分たちのブランドを店舗内で厚遇してくれる「メーカー差別化型小売店舗(=パートナーシップ)」だからと言われています。
Nikeだけに限らず、大手メーカーによるD2Cモデルの拡充や特定の小売事業者との連携を強化する動きは、より活発になると考えられます。
4.Nike独自の5つの戦略
(出典:HyperMetro youtubeより)
Nikeはデジタルツールやパートナーシップ、ストア内での特集などを通じて、アスリートやそのコミュニティにサービスを提供しながら、きずなを深めていくマーケットプレイスづくりを目指しているようです。
そこにはNike独自の5つの戦略があるようです。
第1は、ショップがローカライズしつつNikeの世界観を体現していることとなります。
ソウルの「Nike Rise」では、地元の人気商品を扱う「City Replay」ゾーンを設置したり、米ブルックリンの「Nike Live by Williamsburg」には、地域のアートシーンに見合うカラフルで奇抜なアートワークを設置したりしています。
第2に、オンラインで注文して近くのショップで受け取ったり、店内の商品をNikeアプリで購入したりと、アスリートがいつでも好きなときにNikeを体験できることとなります。
リアル店舗とデジタルツールのバランスが重要だとしています。
第3に、パートナーシップの強化となります。
同社は米スポーツ用品店「DICK’S Sporting Goods」と連携し、NikeのメンバーはDSGカードと紐づけられて、限定サービスや製品、体験を手に入れることができるようになっています。
第4に、近所のランナーとつながったり、新製品や限定コレクション、地元のイベントにアクセスしたりと、Nikeアプリのメンバーによりパーソナルでポジティブな体験を提供することとなります。
スポーツ文化はファッションやフィットネス、音楽などを含む多様で包括的なものであり、誰でも参加できるというのがポイントとなります。
第5に、Nikeのメンバーは世界のスポーツコミュニティの一部をなすということです。
パリやニューヨーク、上海の「House of Innovation」からは、新しい製品や体験など、メンバーに向けたさまざまな最新のニュースが発信されています。
また、最近では、メタバースにも積極的に参加しつづけています。
(出典:Nike youtubeより)
5.新しいコンセプトショップ
①House of Innovation
(出典:Highsnobiety youtubeより)
2018年11月、デジタル上の顧客体験とリアルの店舗体験を組み合わせた新店舗「NIKE House of Innovation 000)」をニューヨーク5番街にオープンしました。
6層、6300㎡の同店は、デジタルと同じくらい反応が早く、ダイナミックかつアクティブな購買体験を提供します。
同店ではナイキ公式アプリやQRコードを利用し、商品検索やサイズの問い合わせ、事前決済、特別キャンペーンの提供などデジタルと連携したさまざまなサービスが用意されています。
1階には「ZOOM FLY 2」や「AIR JORDAN 1」を含む5モデルを、カラーや素材を組み合わせてカスタマイズできるサービスを「NIKE Arena」で展開しています。
2階はウィメンズとキッズ、3階はメンズで、2階がスポーツとファッションカテゴリーをミックスした品ぞろえであるのに対し、3階は対照的に実用性重視のカテゴリーをラインナップしています。
4階は世界最大のフットウエアフロアになっており、他店よりも充実した品ぞろえに加えて、スケッチや映像によるフットウエアの製作風景の展示も行われています。
メンバーシップ「NIKE Plus」の会員は5階の「Nike Expert Studioでスタイリングセッションの予約ができ、ファッションと機能性を兼ね備えたより高品質な製品を購入することも可能となっています。
「Speed shop」と名付けられた地下階は、地元の顧客に人気のアパレルとフットウエアを集め、時間に追われるニューヨーカーにスムーズなショッピング体験を提供します。
この階にはピックアップロッカーも設けられており、「NIKE Plus」会員はアプリ上の手続きのみで予約購入した製品を受け取ることができます。
この店舗は、数カ月間の試行錯誤を経て誕生し、デジタル上の体験を店舗に結びつけた、昨今のリテールの一歩先を行く存在と言われています。
同時期に上海で「NIKE House of Innovation 001」、2020年8月に「NIKE House of Innovation 002」がパリにオープンしました。
②Nike Rise
(出典:nike.comより)
Nikeは会員制を利用した実店舗のデジタルフォーメーションを加速するため、「Nike Rise」というストアコンセプトを掲げ、中国・広州に同コンセプトの新店舗「Nike Guangzhou」を2020年7月にオープンしました。
「Nike Rise」は、上海とニューヨークの「House of Innovation」、カリフォルニアを中心とした、小型ソーシャルコンセプトショップの「Nike Live」、アウトレットコンセプトの「Nike Factory」に続く、通常のショップとは異なるNikeのコンセプトショップとして4種類目のコンセプトショップとなります。
また、2018年10月に上海に「House of Innovation」(Nike上海001)をオープンして以来、中国での2店舗目のコンセプトショップともなります。
店舗は正佳広場(Grandview Mall)に位置し、3階建ての店内の面積は2053㎡ほどとなります。
同店ではユーザーを中心に据え、メンバーファーストのアプローチを強化しています。
1対1の接客を行い、スポーツやコミュニティ、そしてほかのメンバーとを結びつけるショッピング体験を提供しています。
広州で試験的に導入されるNikeの新しいアプリ「Nike Experiences」は、住んでいる街をデジタルなプレイグラウンドへと変えてくれます。
そこでは、週替わりでのスポーツ関連のイベントや、店舗でのワークショップ、地元のアスリート、エキスパート、インフルエンサーによるイベントに参加できます。
また、新しい「Nike By You」バーを使えば、地元チームのユニフォームから普段使いのTシャツやトートバッグまで、街のスポーツ文化にインスパイアされたデザインのアイテムを提供してくれます。
さらに、中国初の導入となる「Nike Fit」では、自分の足を専門スタッフにスキャンしてもらい、ぴったりのフットウェアを選ぶことができます。
サイズはメンバーのプロファイルに保存され、オンラインやオフラインで活用することも可能となっています。
Nikeは、「Nike Rise」の導入により、デジタル変革を加速しています。
これは、会員のスポーツの鼓動に応える、これまでにないNikeのストアコンセプトとなります。
消費者を中心に据え、会員優先のアプローチを採用した「Nike Rise」の最初の店舗である「Nike Guangzhou」は、消費者とスポーツ、コミュニティ、そして互いを結びつける1対1のパーソナライズされたショッピングの体験を提供しています。
2021年8月にはソウルにも「Nike Soul」をオープンしました。
5.最後に
(出典:Nike youtubeより)
Nike はデジタルや店舗を軸とし、顧客と深くつながり、買物の仕方を一変させてきました。
強固なつながりを持った顧客は「靴が欲しい」のではなく、「Nikeの靴が欲しい」のであり、日頃の生活や運動の場面でもNikeという存在が欠かせなくなります。
顧客とつながり、直にブランディングを展開することで、常に「Nikeの商品が欲しい」という状態をつくり出しています。
目先の商品販売を重点に置かず、顧客とのつながりを大切にするブランディングは、今後もファンを増やし続けるかと思います。
日本でもデジタル化を強化しているブランドもありますが、デジタル化だけでなく、顧客とのつながりも重要視していくことが重要かと思います。
今後の日本のブランドの展開に期待しています。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。
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