【読書感想文】ざんねんなスパイ
新潮社より、一條次郎氏の「ざんねんなスパイ」についての読書感想文です。
文庫本が出てたんですね。知らなかった。
一條次郎氏の作品は、どれも癖のあるユーモアな世界観で好きな人はめちゃくちゃ好きなものになっています。
星新一のショートショートが好きな人は一度読んでみることをおススメします。まさにSF(すこし ふしぎ)な世界観です。この独特なお話を真似することはなかなかできないんじゃないでしょうか。
わたしはニホーン国のエリートスパイ。だが、どこでしくじったのだろう。市長を暗殺しにこの街へやってきたのに、そのかれと友だちになってしまった……。キリストを名乗る突然の来訪者、年寄りの賢いロバ、泥棒稼業を営む隣家のマダムに、巨大化したリス。妙ちきりんで癖になる人(動)物たちが次々に織り成す、一大狂騒曲。
あらすじからもうおもしろい。
この「わたし」というのが主人公なのですが、なんと73歳のおじいちゃんです。エリートスパイを自称していますが、幼少期にスパイ養成所で育てられているけど今回が初任務です。
もうこの時点でただのスパイ小説じゃないなっていうのが分かります。ちなみに開始1ページ目でそれが発覚するので、最期でどんでん返し!という展開を期待して読み始めると出鼻をくじかれます。
登場人物が主人公を含めて全員特徴的で、そして全員一癖あります。
そんな癖のある登場人物たちがテンポよく会話をしていくのですが、言葉のチョイスに思わずクスリと笑ってしまいます。
小説を読んでいて、年齢が近かったり境遇が似ていたりで、一人くらいは自分と重ね合わせてしまうような人物がいるものですが、この作中では誰にも共感できません。むしろそれがおもしろい。
こんな酷いことをするなんて考えられない、みたいな悪い意味ではなく、何を思ってこんな言動をしているのか分からないっていう共感のできなさです。
うまく言語化できないのがもどかしい。
そんなはちゃめちゃな登場人物ばかりで物語もわけが分からないのかと言われればそうではありません。
しっかりスパイ小説としての展開があったり、急に大事件が起きて主人公が巻き込まれてしまったり、ハラハラするような場面も出てきます。
序盤での何気ないやりとりが伏線になっていたり。
ただ独特なユーモアを楽しむだけではなく、小説としての面白さもあって読みごたえがありました。
ありえない登場人物たちに、ありえないお話の展開。ファンタジーとはまた違った少し不思議な世界観が好きな方はぜひ。