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NHKラジオ深夜便 絶望名言【読書とエッセイ13】

人間は昼と同じく、
夜を必要としないだろうか。    (タッソー)

ゲーテ『絶望名言』P.109より

さいきん絶望することばかりなので、キラキラを探すのはやめて絶望に浸りたいと思う。

わたしの絶望 ~絶望名言を添えて~

新五百円玉を返して!

ある日、商業施設の自販機に新五百円玉を入れたら使えなかった。それに返却口からも出てこなかった。飲み込まれてしまったと思い、掲示されている緊急連絡先に電話したが、土日でお休みだった。

しゃがんでコインの取り出し口をスマホライトで照らしたら五百円が奥に引っかかっているのが見えたので、小銭を大量に投入して押し出して取り出そうとしたが、一向に出てこない。

新五百円玉が引っかかっているところ。
手は絶対に入らないようになっている。

ビルメンの工具などを借りたり、なんとかすればすぐ取れるだろうと思い、そこのインフォメーションに相談したら、ちょっと待ってくださいと言われたので、なんとかしてくれるのだと思い、かなりの時間待った。しかし、長らく待った挙句「自販機に電話番号が書いてありますので…」とな。

自販機のトラブルは基本的にはその商業施設とは関係ないのは知っているし、とっくに電話したことも説明したのに。工具などを貸してくれるかと思い、長いこと待っていたのに…。

やけくそになって、カウンターにあった施設案内のパンフレットを握りしめ、再度自販機へ向かった。厚紙のそのパンフレットを細長く折りたたんで、手が入らないコイン取り出し口の奥に突っ込んで五百円を自力で回収した。

他の客や防犯カメラには、ドロボーように見えていたでしょうね…一応インフォメーションに事情は伝えているのでやむなし。

何日もそのままにして、だれかが、購入しようとした途端に何かのはずみで五百円が出てきて持ち去られてしまう可能性大だし、五百円を失うのはイタイ。それにもう自販機の会社に電話して、住所伝えて現金書留が届いて……なんてもう待っていられない。

新五百円玉が自販機でいまだに使えないなんて……ちなみにICも使えなかった。

光の強いところでは、影も濃い。        (ゲッツ・フォン・ベルリンゲン)

ゲーテ『絶望名言』P.96より

自販機ってまぶしい。

不幸は、ひとりではやってこない。
群れをなしてやってくる。   (ハムレット)

シェークスピア『絶望名言』P.199より

かたまってやってくるよねヤツら。

老舗旅館で後期高齢者に罵られる

わりと高級な老舗旅館に行った。その地域の数万円の宿泊クーポンが抽選で当たったから、わざわざ高いところを選んで泊まりに行ったのだ。

しかし、帰り際にそのQRコードのクーポンがうまく使えずに四苦八苦していたら、ロビーのほうに座っていた婆さんが悪態をつきはじめた。

婆さんは座っていたので、会計を待っているなんて私は知らないし、スタッフに「チェックアウトしたい」とも言わずにただ座っていただけだ。

「なにやってんだよっ!モタモタしやがって」というようなことをずっと遠くで叫んでいた。怖かった。夕方のニュースでたまに特集されている地域の騒音おばさんみたいなかんじ。

その声量で「急いでいるから会計早く済ませたい」と叫んだらどう?

文句や要望があるのに口頭で伝えずに、イライラをまき散らして不機嫌を振りまいている。急いでいるならスタッフに「会計したい。他にスタッフはいないのか?急いでるんだけど」とか、私に「先に会計させろ」とか言えばいいのに、ただ周りに聞こえるように悪態をついて、機嫌をとらせようとしている。この婆さんの家族はそうやって婆さんの機嫌をいままでとってきたんでしょう。婆さんの家族は何も言わず隣に座っていた。婆さんに逆らえないのか、普段から虐げられているだろう。

不機嫌ハラスメントだ。嫁姑マンガによく出てくるような昭和のいじわる婆さん。なので、会計が終わっても「おまたせしました」と声をかけずスルーした。そもそも誰にも「会計をしたい」意思表示をしていないので、大きな独り言を言っているにすぎない。

スタッフの男性もずっと婆さんを無視していた。さすがにスタッフはなんとかしても良さそうだったのだが、そのスタッフもずっと無愛想で不機嫌だったので。朝10時に受付スタッフが1人しかいないのもどうかと思う。

まず、老舗旅館でイライラすることがおかしい。そんなあわててチェックアウトする必要はないはず。いったいそんなに急いでどこいくんだ?

せっかくおいしい懐石料理を食べて、温泉入って幸せだったのにショックだった。

どうせ生きているからには、
苦しいのは
あたり前だと思え。     (仙人)

芥川龍之介『絶望名言』P.150より

生きるのは苦しい、と思うとつらいけれど、苦しいのは当たり前だからどうってことはないのだ。

周囲は醜い。自己も醜い。
そしてそれを目のあたりに見て生きるのは苦しい。
(井川恭・宛 大正四年(一九一五年)三月九日付)

芥川龍之介『絶望名言』P.153より

ここにこんなふうに文句たらたら書いていることも醜いなとは思う。

宵闇の訪問者

毎日、日が暮れると女性が家に訪ねてくるようになった。日が暮れてからチャイム鳴らすなんて怖い。宅急便のたぐいは事前にメールがくるようになっている。

いままで事前連絡なしに突然訪ねてくるのは宗教の勧誘か不動産等の営業しかなく、対応すると猛烈に消耗するので居留守を使っていた。

そうこうして4日目には何回かチャイムがなり、何かドアポストに入れられたので、しばらくしてから恐る恐る取り出しに行ったら、新聞料金を払えとの置き手紙…

1カ月前に新聞料金は3カ月分前払いしてあり、領収書ももらっている。家族からその旨電話したところ「家に電気ついていて、いるはずなのになんで出ないのか」とか「本社に回収するように言われている」だの…

家の明かりで在宅を確認するために暗くなってから来てたのね。取り立てってこわい。こわすぎる。そもそも先に電話してよ。っていうか支払ったのに帳簿つけてないのか?いい加減すぎやしないか。

そしてもう取り立てはこなくなったが、支払済みなのを確認したのかどうかの連絡も謝罪もなかった。もう新聞やめようかと家族と相談中。その新聞はクレジットカードも銀行振り込みもできず、自宅訪問集金システムしかないらしい。新聞て掃除に使ったり、ものを包装したり、いろいろ便利なんだけど。

明けない夜もある。   (マクベス)

シェークスピア『絶望名言』P.207より

最近は新聞が届くよりも早く起きてしまう。

なすすべがないので神頼み

さいごの絶望事件は……びっくりして、友人に連絡したら「警察に言ったら?」とアドバイスされたので警察に相談しに行った。結局、警察では対応できないとのことで、他の相談窓口に相談したので書くのは控える。

向田先生もこう言ってるし。

言葉は恐ろしい。
たとえようもなく気持ちを伝えることの出来るのも言葉だが、
相手の急所をグサリとさして、
生涯許せないと思わせる致命傷を与えるのも、
また言葉である。

向田邦子『絶望名言』P.353より

人間は、
何か一つ触れてはならぬ深い傷を背負って、
それでも、堪えて、そ知らぬふりをして、
生きているのではないのか。     (火の鳥)

太宰治『絶望名言』P.122より

結局もう何も手立てがないので、酉の市をひやかしながら、神社でお参りをし、厄除けのお守りをいただいてきた。

無事に新年を迎えることができますように。

生きることは、
たえずわき道にそれていくことだ。
本当はどこに向かうはずだったのか、
振り返ってみることさえ許されない。  (断片)

カフカ『絶望名言』P.22より

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