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津波と原発事故で失われたものは何か

 福島市への出張があり、初の福島県だったので、一泊延ばし、津波被害と原発事故の影響があった沿岸部を見学した。今回の目的地は、請戸小学校と原子力災害伝承館を目指して行った。

震災遺構 浪江町立請戸小学校

請戸小学校

 市内での仕事が終わり、そのままレンタカーを借りて、浪江町立請戸小学校へ。
 請戸地区は津波被害で100人以上が犠牲になった地域だが、請戸小学校は、教員も子どもたちも全員避難することができ、今は、震災遺構として津波に飲まれた小学校の様子を見学することができる。

請戸小学校1階の普通教室

 とにかく目の前にすると津波の被害に衝撃を受ける。
 1階部分は全て飲まれてめちゃくちゃになっていた。2階は、元の教室の姿が残っており、展示とともに突然奪われ、戻らなかった日常を想像できる。津波だけなら、すぐに復興に向かっただろうが、原発事故により避難区域に指定され、取り残されたこの場所での生活に絶望する。

 黒板には復興に向けた言葉があり、当時の小学生が10年後に綴った文章も展示されていた。
天気はあまり良くなかったが、小学校の2階から見える景色には、海岸沿いに続く防波堤があり、今なお廃炉処理が続く福島第一原発が見えた。

 全て飲まれた浪江町は、請戸小学校近くに住宅はなく、復興公園などが建設予定で、請戸漁港は2021年から復旧している。

請戸漁港から遠くに見える福島第一原発

 その日は、道の駅なみえに寄り、いこいの村なみえに一泊。周辺を散歩しようと思っていたが、熊出没注意の張り紙があり断念。夕食の刺身、焼き魚も普段飲まない日本酒も美味しくいただいた。すごく美味しかった一方で放射能のことが頭をよぎる。1日だからそこまで気にならないが、ここに住み毎日の食事となると、正直、不安になるだろう。

いこい御前と磐城寿

 翌日は、丈六公園と復興記念公園ができる予定の場所にある見晴台へ行き、街全体を見る。
 今の景色からは、請戸小学校で写真があった震災前の町の様子を思い浮かべることはできなかった。

 その後、第二の目的地である原子力災害伝承館へ。

東日本大震災・原子力災害伝承館

 印象的だったのは、展示内容が原子力発電所ができる前まで遡っていたことだ。当時、安全神話があり、町に大きな雇用を生み出した建設工事、そして発電所運営、東京の高度経済成長を支える電気を生み出していたこと、その後の震災と原発事故、事故への対応と広域避難。今も続く除染作業と復興。行く途中で帰還困難区域の看板や除去土壌を運ぶトラックを見ていたので、復興がまだ遠い道のりだとも感じた。

帰還困難区域の看板
見晴台から見えた除去土壌運搬のトラック

 今回は長く時間が取れなかったため、少し急ぎ足で、語り部の話も聞けなかったが、1日かけてまわってもよい施設だった。

 今回の旅で、浪江町や津波被害を受けた地域が復興を目指していることはわかった。でも、過去の写真と見比べて、あまりにも景色が変わってしまった。
 それは、ハード面でいくら堤防ができようと、住宅ができようと、綺麗な公共施設ができようと、元の地域、そしてコミュニティが戻ることはないことを思い出させる。
 津波だけだったら、次の日から復興が始まっていただろう。でも、原発事故により、強制避難区域ができ、放射線の危険性を感じた人々の広域避難が起き、補償による分断も起きた。

 コミュニティが失われた地域で住み続けることは、ずっと昔の地域の姿に囚われるのではないか。
 避難している人は逃げた人だと考えてしまうのもわかる気がする。でも、分断を生んだのは、津波であり、原発である。

 狭い地域なら県の職員も、市町村の職員も、原発の職員も身近にいるということで、そのなかで、行政も国も敵とも言えない。分断したコミュニティは戻らない。でも、そこで今、生きている人がいる。それは忘れてはいけないことだと思う。

 今後、人口が減少し限界集落が増えていくことは確実だ。そうした集落での被災は、地域、文化、その地域の記憶が失われることになりかねない。東北では地震、津波、そして原発事故と、複合的であり、人災でもあった。今後、人災は起こしてはならない。けれど限界集落での災害は、人の力が足りず、同じように長期の被害を生むだろうと感じる。

 今、能登に目を向けてみると、東北の経験が活かせたとは言えない状況がある。東北の問題も、能登の問題も、自分たちの生活の続きであり、今後多くの地域で直面する課題がある。災害は今ある見えにくい課題を浮き彫りにする。
 私たちのコミュニティを保っているのは何か。すでに起きている課題は何か。残したい、守りたいものは何か。せめて、自分の言葉で考え、少しでも自分ごとにして、そして、自分が住む地域のことも考えていきたい。

お土産の赤べこ

 会津にはいけなかったが、以前から欲しかった赤べこを我が家に迎えた。子どもたちが健康で生きていけることを願う。

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