初めて心療内科に行った日
「もう、生きていけないかもしれない」
心からそう思った翌日、やっと予約の取れた心療内科に向かった。
適応障害、うつ、心の不調は現代人の抱える病の中でも、
極めて厄介だ。知らない間に、体の内側からどんどんと蝕んでいき、
気が付いた時には、死が手の触れる距離に迫っていたりする。
心療内科の予約をとるのも結構大変で、
私の場合は4~5件電話して、
たまたま空いていた心療内科に滑り込むことができた。
心療内科というと、正直身構える。周りの人に話すのにも、抵抗がある。
そう思っている人は、私だけではないのではないか。
日本人は、悩みを口にするのが、とても苦手な民族だと思う。
欧米みたいに、もっとオープンにセラピーを受けたりできたら、
自死する人も減るんじゃないかな、と思ったりもする。
難しいか。
診察室のドアを開けると、おじさんの先生が座っていて、
30分くらいだろうか、私の仕事や家族のこと、悩みや具体的な症状(不眠とか)など、色々と質問された。
肯定しかしないすごく優しい先生 or 薬だけを処方する無機質な先生、
このどちらかのタイプかなと予想していたが、どちらでもなかった。
言い方が適切かよくわからないが、
街の喫茶店のマスターみたいな、そんな感じの人だと思った。
一通り私の話を聞くと、先生は、
「もっと、自分の人生を生きなよ。あなたは、誰の人生を歩いているの?」
と、私に言った。
私にも、わからなかった。
自分の人生を生きていると思っていた。
でも、知らない間に「誰かの期待する私」を演じていたのかもしれない。
それを評価されるたび、どんどんハードルを上げていき、
やがて、そのハードルを越えられなくなり、潰れた。
そして、あの日。
「もう、生きていけないかもしれない」と思い、絶望で目の前が真っ暗になったのだ。
「とりあえず、心が落ち着く薬を出しておくから。
苦しいときに飲みなさい。大丈夫なら、飲まなくていいから。」
初回の診療は、そんな風に終わった。
春の日差しがまぶしい、5月の午後だった。