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涙の向こうに視える「絆」に思いを馳せる

5月に「ナースの卯月に視えるもの」の感想文を書きました。

この時は参りました。読書中、亡き母のことが頭から離れないのです。かなり感情を揺さぶられたので今回も覚悟を決めて読み進めました。長期療養型病棟ということもあり1巻同様に「終末期医療をどうするか」で家族が判断するシーンが何回か出るのは想定できます。

私は苦しむ母を妹と共に看ていたため、人工呼吸器を諦める決断を経験しました。あの判断は心が切り裂かれるような苦しみが伴います。でも家族が決断するしかないのです。看護師さんがどれほど寄り添ってくれようとも、この決断は家族が選ぶものですから。そのため、この場面が描かれている部分では心が痛みました。

しかし、読み始めても1巻ほど母への想いにからめとられはしません。純粋に物語の世界へ入れます。タイトルにもあるように「絆をつなぐ」がテーマとなっていることが大きく影響しているように思われました。卯月は変わらずに「思い残し」は視えますし、患者や家族に寄り添う姿勢は変わりません。合間に描かれる食事のシーンは今を生きる人間の息遣いが伝わってきます。人としての迷いも描かれつつも、患者側からではわからない看護師の目線で語られる文章からは、1巻同様に感謝の気持ちがフツフツと沸き起こりました。

それでも、1巻ほど母を近くに感じず「卯月2」を読み進められます。卯月にだけ視える「思い残し」の質が変わったことも影響したのでしょうか。本書の中の人々の絆がつながる様子に重点が置かれているのも安心して読めるポイントでもありました。

1巻は亡くなる前に視えていた「思い残し」が本作では「前へ進む」ためのものとして描かれています。この点が今後どのように変化していくか今から3巻が楽しみで仕方ないなと読み終えようとした時、

やられました。

最後の話で一気に涙腺崩壊です。
娘の気持ちだけでなく母親の気持ちも知っている現在、吉沢さんのエピソードは泣かされました。我が子を思う気持ちが揺さぶられた時、また母への気持ちが頭をもたげ始めます。

私は母の気持ちを本当に汲み取っていたのか。
数々のわがままや舌禍への謝罪をきちんと伝えられていたのか。

会いたい、
今もまだ、母に会いたい。
看護師さんと、もっと話をすれば良かった。
感謝の気持ちも伝えたかった。
付き添い中の迷いを相談すれば良かった。

母の死という混乱の中、別れたため看護師の方々とは会う機会は永遠来ないでしょう。本作の中で卯月が母親や家族と思いを伝え合えられたのは、後悔を抱える私にとって救いとなりました。

小説は現実では解決できない後悔を代わりに溶かしてくれるものだということを「卯月2」は教えてくれたのです。

卯月咲笑うづきさえ

その名のごとく、3巻4巻5巻……と涙の向こうに幸せの笑みを咲かせてくれることでしょう。続巻お待しております。

🐈🐈🐈

本編を読まれた方もまだの方もこちらの番外編を読んでみてください!

番外編とは思えない充実した内容でこれだけでも独立した話となりますし、読むと本編の物語が厚みを増します。

感動というよりは、外からは見えない家族が抱える悩みが浮き彫りにされる見事な作りに唸ってしまいました。こういう場合は「見える」ではなく「視える」力が本当に欲しいです。家族だからこそ言えない問題は家庭内に多く隠されているかもしれないと思うと。視える力で助けたくなります。

卯月は猫を通してこの問題の解決に間接的に関わりますが、自らが動くのではなく様々な分野の方々を通して解決されたのがとても良かったです。

ここで「看護師探偵」として描かれてしまえば卯月シリーズの魅力はなくなってしまうでしょう。以前、断られましたが、この場だけ、一回だけあの呼び名を言わせてください。

秋谷りんこ先生、最高です!

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