◆事例比較の考え方等を基礎付けうると思われる「異化」と「ダイアローグ的(ないしポリフォニー的)」という二つの文学的視点について、C・ギンズブルグが歴史的考察に付している。 「異化 ―ある文学的手法の起源」 「他者の声 ―近世初期イエズス会士たちの歴史叙述における対話的要素」
◆事例比較.意味をつかみたい遠位項たるターゲット事例に対し、自身になじんだ近位項であるベース事例を使うのは、「動き」を与えるためでもある。比較が思考の原型であるのは、比較するときには必然的に「動き」が生じ、これにより潜んでいた様相が汲み出されて意味が新に生成されるからである。
◆事例比較(5)各当事者が主張しあるいは裁判所により認定された事実というのは、構成された事実である。現実を言葉により記述すること自体が構成作業である。かつ、言葉にした事実の抽象度は様々であり、その外延と内包は抽象度により双方逆向きに増減する。ここから事例比較の可能性と罠が生じる。
◆理論と実践(1)「理論だけ」「実践だけ」とどちらかに振り切ってしまうのではなく、理論・実践の深みを見据えつつ、その「あいだ」「あわい」「接触面」を探究する。理論と実践を繋ぐものとして今のところ、レトリック論(言語哲学ー言語技術)と決疑論(事例比較、類似からの議論)が最有力候補。
◆事例比較(4).ベース事例は思考の補助線である。事例比較の典型は判例・裁判例をベース事例とするものだが、これは遠接思考補助線であり、ふつうは難度が高い。ターゲット事例の諸要素をずらして生成した反実仮想事例は、近接思考補助線である(近接のために生成)。こちらは生成に難度がある。
◆事例比較(3).ターゲット事例を諸関係の中に置くこと。AはBと対比することで、相互の差異性と同一性が生まれ、意味が生じる。それゆえ、AをCと対比した場合には、また違った意味が生まれることになる。よって、Aの意味合いは、何と比較するかによって異なるのであるから、相対的判断となる。
◆事例比較(2).意味は差異性と同一性の複合により生じる。そのため、AはA以外のものとの比較によるしか意味を生じない。リンゴはミカンと比較してみて、その差異と同一を感知しなければ、リンゴの意味合いは広がってこない。事例比較も同様のメカニズムによる。
◆事例比較(1).①法律学等の一般論から、ベースとなるべき通常(典型)事例を生成する。②ターゲット事例の諸要素をずらすことで、ベースとなるべき反実仮想事例を生成する。それらとターゲット事例を比較検討することにより、ターゲット事例の諸要素に意味合いが生じ、理解が得られる。