『少女のころ』 置き去りにされても 永久(とわ)にしようと閉じ込めた 長すぎる少女の時を 儚さ抱(いだ)いて憂うのか 見果てぬ夢と知ってなお 刹那の瞬きに掻き消えた 短すぎた少女の頃を それでも愛しく惜しむのか
『少年のころ』 置き去りにしても 夏と競って駆け抜けた 幻のような少年の頃を それでも共に懐かしむのか 留まることをあきらめてなお 晩夏の空に焼きつくほど 鮮烈すぎた少年の時を 互いに黙して分かつのか
『夜の帳』 夜の帳がおりる頃 その際(きわ)に絡みつくきみの吐息 しっとりと忍び込む 露を含んだ宵の匂い 宙(そら)を宿す眼差しが 熱を帯びて見つめている 紡がれた濃紺のビロード 薄く織られて波打つヴェール それは絹の光沢を放ちながら やわらかい素肌に纏う衣(きぬ)が如
雲の彼方 さがしてみても きみはいない あの空の空 心 彷徨せ ひとり気づく きみは ここに きみはぼくの中に いつも灯っている
心、待ち 心、得て 心、満ち 心、萎んで 心、泣く 待つ人を 待つ自分 待つ時間 待つ場所で 待つ心 待たされるだけ 待たされて 待つものは来ない 待たぬふりして 待つものは 今日か 明日か 明後日か はたまた 我 夢の中のみか
『パンドラの夢』 恋いくつ、なくしても 愛ひとつ、のこればいい 涙いくつ、おとしても 笑顔ひとつ、のこればいい 何をいくつ、てばなすも 心ひとつ、のこせばいい
『扉』 扉を開けば、そこには闇の粒 そのひと粒ひと粒が流れてこぼれ落ち 弾けた先に広がって行く様を見ていた 果てのない闇 生まれ落ちた闇は しかし、闇の中では姿も見えず かと言って、消えもせず ただ、そこに佇む気配だけ その気配の強さとは裏腹に 闇色は扉の奥へと消えた
水色の雫は天のシロフォン 時に優しく 時に激しく あらゆるものを鍵盤にして きみもそのひとつになる きみの肩を叩いた音は何の音? きみが肩を落とす音 きみの頬を叩いた音は? きみが涙をかくすヴェール ならばこの手で拭おうか 混じり合って伝い落ちる きみの水色の雫ごと