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Moon Riverと朝散歩

朝、アパート前の通りをぶらぶら歩くことが習慣化した。
朝日を浴びると睡眠障害の回復に効果ありとの情報を信じて始めたが、その1時間後には朝日のもと出勤する。散歩自体の意味はないかもしれない。

集合住宅と商店がひしめき合うアパート界隈も、午前6時の人通りはまばらだ。人を見るのはしんどいので安心する。
夏のパワフルな朝日に背を向け、ビーチサンダル履きでぺたぺた西方向へ歩く。

そのとき大抵、頭の中でオーケストラのワルツと切ないハーモニカの旋律が流れる。
Moon River。
オードリー・ヘップバーン主演の映画『ティファニーで朝食を』のテーマ曲だ。

映画は早朝のシーンで始まる。
黄色いタクシーから下車した黒いドレス姿のオードリーが宝石店Tiffanyの店舗を見上げる。人通りはない。
ショーウィンドウをひとつ、ふたつと眺めながら、紙袋からおもむろにパンとコーヒーを取り出す。
食べ終わった紙袋を道沿いのごみ箱に捨て、歩き去る。

このシーンから感じるのは孤独だ。自分の機嫌をとり、思うままに振る舞う姿の裏側にある習慣化された寂しさのようなものだ。

ひとりの朝。人のいない通り。自分の状況からおのずと映画のこのシーンを想起しているのだと思う。
天国のオードリーとしては勝手に重ね合わせられて不満かも知れない。許してもらうしかない。

Moon Riverを口ずさみながら来た道を戻る。古びた駐車場の前でキャスターを1本吸う。その日のたばこで一番良い香りがする。

Moon River, wider than a mile
I’m crossing you in style someday,
(ムーンリバーは 広い川
 いつか渡るわ かっこよく)

lyrik: John Herndon Johnny Mercer
日本語は拙訳

可能な限り全力で生きてきたつもりが、私もまた広いMoon Riverの川岸に着いてしまった。こんな所に来るはずではなかったが仕方ない。
自分はいつか、かっこよく渡り切ることができるのだろうか。そうありたいと思う。

キャスターが燃え尽きると、頭の中のMoon Riverの再生を停止させる。
すみかへの帰路、その日の仕事の予定を考え始める。(零)

#朝のルーティーン

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