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『スミコ22』(福岡佐和子監督、2024年)

22歳のスミコは、大卒で就職した会社を4ヶ月で退職し、ピザ居酒屋でバイトを始めた。本作はその頃の(9/2-9/16)のスミコの2週間の日記である。

65分間の作品中、恋とか愛とか死とか、映画にありがちな事件は起こらない。描かれるのは、実家の猫の似顔絵を描いたこととか、大学のゼミの友達や教官と飲み会したこととか、その辺にありそうな日常だ。
そんな日常に数グラムずつの可笑しみや温かさが添えられている。

誰かの普段の生活が、生活するように演じられる(これも容易ではないのだと思うけど)。そこにリアリティや近さを感じる。私は何かと痛い目に遭った末、今はひとり過ごしているが、そんな無様な日常っていうのも見ようによっては多少面白いのかもしれん、と思わせてくれる。

スミコは人前であまり喋らない。飲み会でも隅っこでみんなの話を聞いている。彼女は「いろいろ考えているんだが、考えがふわふわして、気持ちをうまく表現する言葉を探せない」といったことを冒頭に語る。そして常に考えと言葉を探している。

その感覚はよくわかる。考え続けると、人はときに言葉少なになるものではないかと思う。
発する言葉が簡素でも、いやそれだからこそ感情ってその人の姿かたちや表情に現れるもんだろう。

社会人になった大学時代のゼミ仲間との飲み会の後、ひとり夜の風に当たるスミコの「置いて行かれた感」を、主演の堀春菜が無言で、まさに立ち姿と表情で表現していた。
時間にして多分10秒弱。本作で一番好きな場面だ。

上映後、福岡佐和子監督や主演の堀春菜さんらによるトークショーがあった。本作のベースにある日記は自身の経験がもとになっていると、終始はにかみながら語る福岡監督の姿が印象的だった。

上映館は多くはない作品なのだと思うが、機会があれば是非ご鑑賞ください。いい作品です。(零)

上映後の舞台挨拶@元町映画館(神戸市)

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