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喪失とどう向き合うかー村上春樹著「東京奇譚集」を読んだ

村上春樹著「東京奇譚集」を読みました。自分的には、これぞ村上春樹!と感じた作品でした。

本書では理不尽な喪失を描く短編が5本収録されています。病気で未来が失われる危機に見舞われる人とのつながりを描いた「偶然の旅人」、息子との死別の物語である「ハナレイ・ベイ」、失踪した男を探す「どこであれそれが見つかりそうな場所で」、突然自分の人生を左右した女性がいなくなる「日々移動する腎臓のかたちをした石」、自分の名前の記憶をときどきすっかり忘れてしまい、それに苦しむ人を描いた「品川猿」。それぞれの物語で何かしらの喪失と対面します。

村上春樹の作品は、喪失とそれに対する人の向き合い方の解像度がとても高い。自分の言語化できていなかった喪失の苦しみをきれいに言語化してくれるところに快感さえ覚えます。捨てきれない思い出に苦しんでいる方に、村上春樹の小説はおすすめです。東京奇譚集も短編で読みやすく、喪失に対する言語化の快感を体感できるおすすめの1冊です。

個人的には、村上春樹の「一人称単数」を先に読んでいたので、品川猿に前日譚があることに驚きました。一人称単数に収録されている「品川猿」もとても好きな短編です。どちらも人でもなく、猿にもなりきれない猿の切ないお話です。東京奇譚集を読んだ方は、ぜひ一人称単数も合わせて読んでみてはいかがでしょうか。

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