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おばあちゃんのこと

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#恋愛

9.おばあちゃんと恋愛

9.おばあちゃんと恋愛

独身で四十路を迎えたとき、ふと思った。

「もう一生、誰とも恋をしないで生きていくのかな」

祖母に「いちばん最後に恋をしたのは、いつ?」と聞いたのは、そんなときだった。

大正生まれの祖母は、戦争中に顔も知らないひとと20歳で結婚し、戦後わたしの父を産むとすぐに離婚、以来、水商売で生きてきた。

祖母はわたしの唐突な問いに少し考えたあと、はっきり「54歳」と言った。祖母はそのとき90歳だった。

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おばあちゃんのこと:6.おばあちゃんと友人

おばあちゃんのこと:6.おばあちゃんと友人

大正14年生まれの祖母には、女学校時代の友人に、きよちゃんがいた。

きよちゃんは、かつて駆け落ちしたことがあった。当時、40代半ば、相手はきよちゃんが雇われママさんをしていた店の客で、ひと回り近く年下の男だった。下は高校生から上は社会人まで、5人の息子たちを捨てての、駆け落ちだった。

40代半ばといえば、いまのわたしと同じくらいの年齢だ。もしもわたしに息子が5人もいて、ひと回り年下の男性にとき

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おばあちゃんのこと:5.おばあちゃんと隣人

おばあちゃんのこと:5.おばあちゃんと隣人

祖母から結婚しろとかひ孫が見たいとか言われることはなかったが、たまに「いいひといないの?」と聞かれることはあった。30代、40代とたいがいの期間独りで生きてきたから、「いないねぇ」と答えるのが常だった。

ある日、「婚活しないの?」と聞かれた。婚活というワードを使ってみたいだけだということがありありと伺える、おもしろ半分な聞き方だ。

わたしは「あるよ」と答え、それまでにトライした婚活について話し

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