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御前レファレンス。(4-1)

第壱回『雲云なす意図。』

#4 -1:街伏せ。


     †

 不可思議担当だけど、僕は不可思議な事象や現象、はたまた都市伝説等にも明るくない。

〝とある〟計画が決行される前に、バイト先の図書館で資料や文献などを付け焼き刃的に読み漁あさった。

 レファレンスで使用している図書館のデータを検索してみると『白い糸』のキーワードで引っかかったのは、いくつかあった。

 その多くが、

 ――耳から〝白い糸〟が出て、それを引っ張ったら『失明』してしまった。

 という、やはりヒバナが説明してくれたあの都市伝説である。

 なにしろ『白い糸」は、おびただしい都市伝説のなかでもとびきりメジャーなネタだった。
 書籍だけでなく、ネットなどにもありとあらゆる情報が溢れている。

 その情報の海のなかから結果、僕は一冊の本を図書館で見つけ、手に取った。

 理由は簡単。

 イラストやマンガで歴史を分かりやすく学習できる本の都市伝説版。
 小学生向けの本だったから僕なんかにもとても分かりやすいだろう。

 という理由から。

『白い糸』についてだけでなく、都市伝説についてちょっとは学べた。

 たとえば、
 都市伝説の多くが年月や月日、時間ときを経ていくうちに、人から人への口コミや掲載された媒体などによって多少のアレンジや変更が加えられていく。
 そして独自の進化を遂げる。

『白い糸』も例外ではなかった。

 ただ白い糸を引っ張った代償が失明しただけではなく、糸を引っ張ってしまったひとは最終的に『ピアスをしているひとを無差別に襲い、他人の耳をかじる』という怪異かいいになった。
 そんな顛末になっていた。

 怪異とは、妖怪変化そのもののことであり、不可思議な事象や現象を意味する言葉である。

 白い糸では、みずからの不注意やうっかり不可抗力などなどの安易な行動をたっぷり食い入ったのち、ありあまるその後悔が――悲しみ苦しみなどを怒り憎しみに変化し、最後は他人を襲いまくる怪異となる。

 この『白い糸』はそもそも、『ピアス』に悪いイメージを持ったオトナが子どもたちに恐怖を植えつけることで、ピアスをしたり、したいと思うことすら思いとどまらせ、回避させようと作り上げられ風聴された、でっちあげと言われている。
(この都市伝説の本にはそんなこと書かれてなかったが、いろいろ調べた僕の独自解釈だということを注釈しておきたい)

 この都市伝説に教訓めいたモノがあるとするなら、先入観や思いこみの怖さを思い知らされる。
 まさに人間ひとの業だ。

「――ひとは見たいモノを見たいように見る」

 とヒバナが口ぐせのように言っている。

 ひとは感じたいように感じる。

 思いたいように思いこむ。

 信じたいモノを信じたいように、

 都合よく解釈して、

 そして信じる。

 信じこむ。

 このレファレンスに依頼された〝糸〟が、そんな人間の業のようなモノなのか、はたまたべつのモノなのか。

 まずは、確かめてみよう。

 図書館での調べものを終え、僕は待ち合わせの待ち合わせの場所へ向かうのだった。

〝とある〟計画、発動の日である。

     †

〝とある〟計画概要――

 ヒバナと僕は事前に落ち合って、僕らは先に駅で〝ふたり〟を待つ。
 そこへ、〝ふたり〟が、偶然を装った㐂嵜さんが友人の平埜さんをともなってやってくる。

 という、おはずかしくもひどく簡単な計画である。

 ちなみに僕が立てました。

 概要ようは――

 僕らは、不可思議なレファレンスに相談してきた依頼者、㐂嵜きさき沙香さやかさんの、

 その友人、平埜ひらの藍那あいなさんに逢ってみることにした。

 ――のである。

 とはいえ。

 友人の平埜さんに「ねえ、あなた〝糸〟が出てますよ」と言うだけならはなはだ簡単な話。

 が。
 平埜さんとは面識がなく、僕から言えば「なにかの勧誘ですか?」と返されるならまだましで、無言で通報される可能性すらある。

 それ以前に、

 依頼者の㐂嵜さんが友人に不審がられるのを嫌って、わざわざ僕らのところへ相談にきたのだから、そこらへんのバランスは考慮しつつ――

「なるべく早いほうがいい」

 とヒバナと僕の考えは一致した。

 㐂嵜さんも不安がっているし、なにより〝糸〟が当事者の友人にどういう作用や影響をもたらすのか、まったく分からない。

 偉そうに講釈垂れてるが、そのあたりの見極めは、なんとも無能の僕には無理でして。

 お気づきの通り、僕が図書館で『白い糸』などに付け焼き刃な上に、一夜漬けだった。

 そんなアレで。
 ヒバナ頼りになってしまうのだけれども……。

 とにもかくにも、次の日。

 計画開始。

     †

・㐂嵜さんは大学の近くでひとり暮らし。

・平埜さんは二駅ほどのところで家族と暮らしている。

・㐂嵜さんは特に用事などないの日は、平埜さんを見送るために駅までいっしょ行く。

 のだそうだ。

 きょうも平埜さんを見送るため、㐂嵜さんは駅にやってくる。
 ヒバナと僕は先回りして改札の前で待ち構えていた。

 そうして間もなく、

 ふたりがやってきた。

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