放課後デイは学びの多様化の一つになれるか -フリースクール・通信制高校サポート校・不登校特例校と自由進度学習-
不登校の児童が過去最多
文部科学省は、不登校の児童が2022年に過去最多を更新し、30万人近くになったことを発表しました。不登校は社会課題であり、さまざまな議論が行われています。
学びの多様化とフリースクール
広島大大学院人間社会科学研究科の栗原慎二教授は、不登校の原因の一つに、学校の多様性への対応不足があると言及しています。教育機会確保法も、学校外の学びの重要性を認めており、栗原教授は学校内外での教育の連携についても議論する必要があると指摘しています。
フリースクールは不登校の児童が通う場で、伝統的な学校とは異なる、子供たちに合った学習の場を提供しています。ただ、すべての人がこのアプローチに賛成しているわけではなく、たとえば、東近江市長は、フリースクールに対して「国家の根幹を崩しかねない」との懸念を表明するなど、さまざまな意見があるのも確かです。
ただ、子供たち一人一人に合った教育アプローチは現在必要とされていて、フリースクールを含む教育の多様化は、それぞれのニーズに応えるために役立つのではないでしょうか。文部科学省も、個別に最適な学びや、すべての子供をサポートする教育を目指していますが、栗原教授は、これらの理念が現場に十分浸透していないと話しています。
通信制高校サポート校
先日、当社の取り組みとしてもご紹介しましたが、通信制高校での学びを支援する通信制高校サポート校も増えています。不登校の子どもたちの進学の選択肢として通信制高校が注目されており、その卒業までをメンタル面や生活や学習のリズムなどをサポートします。
学びの多様化学校(不登校特例校)
教育の多様化は国の施策でも進んでいます。それは「学びの多様化学校(不登校特例校)」と呼ばれ、学習指導要領に縛られない自由なカリキュラムに沿って学習が進みます。
文部科学省のホームページによると、不登校特例校は現在全国で10都道府県に24校あり、高校はすべて私立校です。大阪府では全国で初めて公立高校にも適用することを発表しました。不登校生徒への支援を強化し、多様な学びの形を提供することにより、教育の機会均等を推進するこのような動きは、他の地域でも進むことが期待されます。
自由進度学習
一方で、学びの多様性を進める教育方法として「自由進度学習」があります。これは、子どもたちが自分のペースで学習を進めることを可能にする方法で、個々の興味や理解度に基づいて学習計画を立てます。このアプローチは、広島県の宮園小学校で実践されています。
2024年1月8日付中国新聞では自由進度学習について紹介されました。以下は記事の要約です。
学びの多様化の課題
前述の栗原教授は、学びの多様化が進める取り組みの一つとして、教員の研修を強化することに触れています。教員が多様な子供たちに対応するための知識やスキルを身につけることで、不登校やいじめ問題への対応が改善されるかもしれません。オンライン研修の利用も、有効な方法として提案されています。
さらに、栗原教授は教育システムの変革は、地方自治体や教育委員会が中心となって進めるべきだと述べています。このようなアプローチを取ることで、より効果的で持続可能な教育改革が期待できます。
放課後デイは学びの多様化の一つになれるか
私たち放課後等デイサービスという立場から見てみると、放課後等デイサービスを利用する児童は、高校生は比較的少ないと言えます。これは私の主観ですが、遊びを大事にするという点で小学生が中心という固定概念があるのと、学習のサポートという点では、高度すぎて職員がフォローできないという側面があるように思います。
もし、高校生の居場所として、多様な学びの一つの場所として放課後等デイサービスを考えるのであれば、高校生が必要とする環境やカリキュラムを整える必要があるでしょう。それは、PC環境であったり、職業訓練であったり、より高度なSST(ソーシャルスキルトレーニング)だったりすると思います。
PC環境であれば、eスポーツができたり、プログラミングを学習できたり、さまざまな仕事に応用できるアプリケーションを学べる必要があるでしょう。
職業訓練で言えば、プログラミングもそうですが、発達特性を持つ子どもたち特有の不器用さをサポートするプログラムや、感覚過敏や鈍麻を把握して周りに伝えるスキルも必要となるでしょう。高校生が思い描く職業に、放課後等デイがどこまでのスキル提供を行えるかも検討しなければなりません。
より高度なSSTは、会社面接や職場でのコミュニケーションなどより社会的な環境を想定する必要があります。会社以外でも、社会参加の場、例えば習い事やレストラン、スポーツジムなども対象になるでしょう。
最後に
そもそも、放課後等デイサービスは学校の勉強や受験勉強を補う場所ではありません。日常生活やコミュニケーション、社会性を養ったり試す場です。小学生を主に支援してきた放課後等デイサービスは、高校生の支援にどこまで対応できるか、施設の環境整備と職員のスキルアップでどこまで対応できるかを検討する必要があります。栗原教授が学びの多様化促進の鍵は教員の研修だと指摘するように、高校生が利用したくなる放課後等デイサービスの指導員もまた、ニーズを満たすべく学びが必要となるでしょう。
さらに、放課後等デイサービスで過ごす時間が、学校の出席日数にカウントされるかという点も大きく関わってくるでしょう。広島の高校ではスクールS という、学校内の教室を利用した居場所づくりの取り組みもあります。かつて家庭と学校と福祉の連携「トライアングル・プロジェクト」が叫ばれた時期もありました。家庭と学校と放課後等デイサービスがより緊密に連携し、子どもたちにとって有益となる教育と福祉を提供したいと願っています。