自民党は「国民の不安」に対処できるか
今回の自民党総裁選で、多くの国民が「刷新感」を求めているのは、当然です。しかし、私は、ここへきて「信頼性」や「強靭さ」も意識するようになったのではないか、と思います。相次ぐ台風による災害や、中国の軍用機による領空侵犯事件が起きたからです。候補者たちが、単に「清新さ」を売り物にしているだけでは、とても、多くの国民が抱いている「不安」に対処できない。問題は、そんな国民の不安に「投票権をもつ自民党員と所属国会議員たちが気付いているかどうか」です。自民党員の感性が問われる局面に入ってきました。
国民心理は、絶えず揺れ動いています。
それは自民党総裁選にあっても、同じです。岸田文雄首相が退陣を表明した後、しばらくは「とにかく、増税メガネから脱却してくれ」という気分が国中を覆っていました。なにはともあれ、次のリーダーに刷新感を求めたのです。それは、当然でした。だって、あまりに酷かったから。岸田政権の低い内閣支持率が、それを証明していました。
ところが、それからしばらく経つと「刷新感だけでは足りない感」がジワジワと広がってきました。国民の気持ちは勝手なもので、退陣表明があってから、時間がともに「もう岸田は終わった。あー、すっきりした」となんとなく満足してしまったからです。そうなると、要求は次の段階に進む。私は、いま候補者たちは「信頼性」と「強靭さ」が求められるようになった、と考えています。
なぜか。
相次ぐ台風による土砂崩れや家屋倒壊などの災害、それに中国軍機による日本の領空侵犯事件が強く意識され始めたからです。
台風については、言うまでもありません。日本列島を横断しそうな台風10号は、九州に上陸した後、ノロノロと進み、新幹線は早々と運休が決まりました。このニュースをテレビは連日、大報道していますから、国民は否が応でも、心配せざるをえません。自民党総裁選のニュースも流れていますが、台風と総裁選では、関心度は比べ物になりません。台風のほうが、はるかに生活に密着した情報です。
それから、中国のニュース。
中国軍機が長崎県・男女群島上空の領空を侵犯した事件は、人々をギョッとさせました。こちらは、普通の生活に関係ないといえば、当面はないのですが、自民党を支えてきた保守層にとっては、絶対に見逃せない事件です。
中国の日本に対する挑発行動は、6月以来、靖国神社での放尿、落書き、8月19日のNHKラジオ国際放送の電波ジャック事件と相次いでいました。昨年7月には、沖縄県・沖縄諸島・魚釣島周辺の排他的経済水域(EEZ)で中国のブイが見つかり、日本は再三にわたって、撤去を求めてきたが、中国が応じていません。
私は、今回の領空侵犯も、こうした一連の事件の「延長線上」にあるとみています。少なくとも、そう受け取る日本の国民は多い。中国船による尖閣諸島周辺での挑発行動は、もう何年も続いているのですから「あの中国が、今度は領空で挑発を始めた」と受け止めるのは、当然です。普通の国民にとっては、これらの事件がバラバラの出来事であるわけがありません。
日本人は、こうした中国の挑発に苛立ちと不安を募らせています。「このままいったら、どうなるのか」と口には出さなくても、内心は大いに心配しています。
国民は自民党総裁選に向き合うときにも、こうした問題を忘れていません。テレビや新聞は、これらを別々のニュースとして扱いますから、相互に関係ないと思われがちですが、それを受け止める国民は、あたかもニュースを別々の整理箱にしまうようにして、消化するわけではない。ぜんぶ一体の出来事として、1つの心のなかで受け止めているのです。
つまり、国民にとっては、自民党総裁選と台風などの災害、中国による領空侵犯という脅威は一体の話なのです。
そうだとすれば、総裁選に対する態度も、災害や中国の脅威を心の中で考えながら、形作っていくことになります。
そのとき、候補者に対する評価のキーワードは「信頼性」と「強靭さ」でしょう。
はたして、候補者は、私たちが抱いている漠然とした不安をきちんと受け止めて、しっかり対応してくれる人物かどうか。つまり、信頼に足る人かどうか。あるいは、これから中国や北朝鮮、あるいはロシアの脅威が高まっていったとしても、しっかり対応する強さを持ち合わせているかどうか。そういう問題意識が重要になってくるのです。私は「いま自民党総裁選はそんなフェーズに突入した」と思います。
強靭さが想定する相手は、中国やロシア、北朝鮮だけに限りません。米国も同じです。11月の大統領選でドナルド・トランプ前大統領とカマラ・ハリス副大統領のどちらが勝つにせよ、日本はこれまでになく毅然とした米国との付き合い方を求められます。世界は「戦争の時代」に突入し、米国が日本に対して、これまでとは違った役割を求めてくるのは、確実だからです。ここでも、強さが必要なのです。
こうした状況は、これまでの「刷新感」だけを求めた総裁選のフェーズとは異なります。一言で言えば「新しければ、なんでもいい」という局面は終わった。もっと、地に足をつけて候補者たちを眺めるようになったのです。
ここまでは、私が思う「国民が総裁選に望んでいること」です。
そんな視点で候補者を眺めると、何が言えるでしょうか。以下は、私が思う望ましい候補者の話です。
私は8月24日に投稿したコラム「自民党は国民の声に耳を傾けるか」で、女性と若さという点から高市早苗経済安保担当相、小林鷹之前経済安保担当相、小泉進次郎元環境相の名を挙げて、この3人が私が思う「国民が考える総裁になってほしい人」と指摘しました(https://note.com/hasegawa24/n/nab83ab6a2056)。
でも、いまや「女性と若さによる刷新感」に加えて、「信頼性」と「強靭さ」も必要です。そんな条件を満たす候補は誰か。私は「高市氏しかいない」と思います。
若い小林氏と小泉氏には、経験と実績が足りません。いくら立派な公約を紙に書いたとしても、紙から信頼性と強靭さが生まれるわけではありません。だからといって、「高市氏が完全に条件に当てはまる」とまでは言いません。でも、いまの日本が置かれた現実と限られた候補のなかでは、消去法で考えて、高市氏しかいないのではないでしょうか。
肝心の問題は、総裁を選ぶ自民党員と所属国会議員がどう考えるか、です。
私がここに書いた問題は、国民心理に関わる話であり、正しさを証明するようなデータを持ち合わせているわけではありません。あくまで、私の観察に基づく「直感」です。だから、自民党員が「そんな話はたわごとだ!」と切り捨てるなら、それも仕方がない。でも、なかには「その通り!」と同意する党員もいるかもしれません。
もしも、私の直感が正しくて、自民党が国民の声を正しく聞き取れず、間違った選択をすれば、どうなるか。おそらく、次の政権は短命に終わるでしょう。
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