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【劇評160】復活狂言の佳品。菊之助が虚実の皮膜を生きる。  ☆☆★★★


 邪気のない愉しさ

 菊五郎劇団の正月は、邪気のない愉しさにあふれています。

 国立劇場は、妙に繭玉が似合う劇場でもあります。樽酒が積まれた正面玄関を入ると、おめでたい気分になります。戦争なんぞにならず、楽しく暮らせればいいのにと、切ない願いで一杯になります。

 今年の復活狂言は、『菊一座令和仇討(きくいちざれいわのあだうち)』と題されています。四世南北作の『御国入曾我中村』を原作としています。   復活といっても、かつての上演台本そのままを上演するのではありません。大胆な改訂を加えて、しかも、新たに場を創作して付け加えるのが通例になっています。
 国立劇場には、文芸研究会という組織があって、そのメンバーがこの書き替えの作業(補綴といいます)に毎回、心を砕いています。
 
 さて、今回の『菊一座令和仇討』は、現在の観客の好みに合わせて、とても簡潔にまとまった台本になりました。

 良い点をいくつかあげます。

両花道の活用 

南北の原作は「権三と権八」とも言われます。権三に松緑、権八に菊之助を配役して、見えない力で交錯するふたりの人生を描写していきます。上手側にも仮花道を作りました。この両花道で、ふたりの入場、退場をダイナミックに見せて、宙乗りなどの派手なケレンによらず、スペクタクルな歌舞伎にまとめたのです。

 第二に、趣向を大切にする視点が一貫しています。
 南北の作は、綯い交ぜといわれる作劇法で知られています。そのため、それぞれの世界に標準とされる登場人物のキャラクターが頭にはいっていないとわかりにくいので、そのあたりを整理しています。

 今回の焦点は、現実の怪我が、劇に入り込んでいるところです。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。