【劇評323】色気したたる松也の『魚屋宗五郎』。妹のお蔦はどれだけ殿や岩上を狂わせたのだろう。こんな宗五郎を観たのははじめてです。
色気があり、キレ味のよい宗五郎を観た。
松也が勤める宗五郎は、単に断酒を破った酒乱の物語ではない。
江戸の庶民として、妹を妾奉公に出さねばならぬほどの窮地から、自分たち一家が救われたことのありがたさ。こうした庶民が強いられた忍耐によって、妹が突然の死を迎えた鬱屈を抑えに抑えている宗五郎の心境がまざまざと伝わってくる。
松也の宗五郎がいいのは、理屈で芝居を運ばず、つねに情を大切にしているところにある。松也の持ち味であるのんしゃらんとした性向を押さえて、しらふの芝居を律儀に演じている。また、ひとたび飲み始めてからの乱暴狼藉にもキレがある。計算によって酔いを積み上げるのではなくて、身体が酒によってのっとられていく様を、爽快に見せていく。
年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。