
『帝国劇場100年のあゆみ』を書棚から取り出して
2012年の12月、東宝は帝国劇場の開場100周年を記念して、『帝国劇場100年のあゆみ』を編纂、刊行している。1966年に刊行されてた『帝劇の五十年』を引き継ぐ冊子で、興味のあるかたは大きな図書館か演劇専門の図書館(たとえば早稲田大学の演劇博物館)で閲覧してはどうでしょうか。
ゆっくりページをめくっていく。私の世代だと『屋根の上のヴァイオリン弾き』、『ラ・マンチャの男』、『レ・ミゼラブル』が懐かしく思い出される。この冊子がすぐれているのは、年代を追った作品紹介に終わらず、資料的な価値を高めるために、この三作品のキャスト表を巻末に収めているところにある。年表というのは不思議なもので、無味乾燥な文字の羅列に思えるが、そんなことはない。一列、一列に俳優とその時代の動きがこめてられていて、舞台がまざまざとよみがえってくる。

しかも、この本のアート・デザインは、著名な装幀家鈴木一誌が担当している。辞典や大部の書籍を得意としただけに、実に見やすく、読みやすく、帝劇の歴史をたどることができる。
本文の記述は、2021年で終わっている。2012年から現在までの記録は、補遺として出版されるのか、それとも、再開場を待って、時間の蓄積とともに出版されるのか楽しみでならない。
映像が残らなかった時代を含め、一瞬を生きる舞台を記録としての残すのはとても大切なことだと思う。私の書棚には、『歌舞伎座百年史』三巻、『日本芸術文化振興会(国立劇場)50年の歩み』をはじめ劇場、劇団の歴史書をおさめた一角がある。この一角の書籍だけは、手放すまいと心に決めている。
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長谷部浩のノート お芝居と劇評とその周辺
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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。