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長谷部浩
2024年8月27日 19:48
特異であることが、すなわち自然であること。 あるいは、どこにもいずはずもない人間が、どこかにいるはずの人間に見えてくること。 野田秀樹作・演出の『正三角関係』で、池谷のぶえが演じたウワサスキー夫人は、俳優であることのパラドックスをよく体現していたように思う。おしゃべりで、おせっかいなおばさんと見えたところが、劇が進むにつれて、巨大な陰謀の黒幕のようにも見えてくる。なぜ、こんな謎めいていて
2024年8月30日 16:35
俳優と役柄 やくざと兵隊日本人の男優は、やくざと兵隊を演じさせるとうまい。そんな警句は今でも流通しているように思う。 日本の映画界は、長くヤクザ映画や戦争映画を量産しつづけてきたから、俳優の思想的な背景とは直接むすびつかないにしても、やくざや兵隊を演じる機会が数多く与えられたのは事実だろう。やくざも兵隊も、その言動は様式に縛られていて、その定式をはずなさければ、「それらしく」見え
2024年8月28日 16:25
男優の資質 野田秀樹作・演出の『正三角関係』で、松本潤は、堂々たる厚みで舞台を支配していた。松本には、スターとしての帝王学がそなわっているからだというのでは、理由を解明したことにはならない。まぎれもなく松本は、野田秀樹の舞台の主役ととして、揺るぎなく舞台にいた。 私はかつて友人たちと交わした会話を思い出していた。 昨年の冬だったろうか、気の置けない友人たちと、神保町の新世界飯店で夕食をと
2024年7月12日 17:38
『正三角関係』には、何が賭け金となっているのだろう。ずいぶん以前、夢の遊眠社解散のときに、野田秀樹の仕事を概観して、「速度の演劇」と題した長い文章を書いた。今回の舞台は、まさしく役者と演出とスタッフワークの圧倒的な速度を賭け金として、日本の近現代史のとても大切な結節点にフォーカスしている。 舞台写真にあるように、色とりどりのテープ、球、蜘蛛の糸などが、大きな役割を果たしている。年齢を重ね