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長谷部浩の俳優論。

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歌舞伎は、その成り立ちからして俳優論に傾きますが、これからは現代演劇でも、演出論や戯曲論にくわえて、俳優についても語ってみようと思っています。
劇作家よりも演出家よりも、俳優に興味のある方へ。
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2024年6月の記事一覧

花組芝居の『レッド・コメディ』を観ながら、思い浮かんだ感想いくつか。

花組芝居の『レッド・コメディ』を観ながら、思い浮かんだ感想いくつか。

 さしたる根拠がないので、劇評には書きにくいことがある。

 今回の『レッド・コメディ』は、『一條大蔵譚』の長成が、意識されているような気がしてならなかった。加納幸和演じる葵は、桂木魏嫗として歌舞伎の舞台に立っていたとき、硫酸による暴行に巻き込まれた。本作のほとんどは、東新聞社主の田岡の庇護のもとに、狂気を癒やしているという設定になっている。

 狂気といったが、加納が演じる葵は、実にわがままいっ

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【劇評341】細川洋平は、俳優と観客の顕微鏡的な関係を再構築する。

【劇評341】細川洋平は、俳優と観客の顕微鏡的な関係を再構築する。

 細川洋平が、ほろびての初期作品に改訂を加えて上演した『Re:シリーズ『音埜淳の凄まじくボンヤリした人生』』は、「ボンヤリ」観ることを許さぬ緊迫した舞台となった。

 冬である。登場人物たちは、熱いコートやマフラーをして、下手の扉から登場する。中年の音埜淳(吉増裕士)は、息子の大介(亀島一徳)と、気の置けない父子のやりとりをしている。上手の机に置かれたラップトップコンピュータに向かっている。

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【劇評340】加納幸和にとって「赤姫」は、人生そのものだった。

【劇評340】加納幸和にとって「赤姫」は、人生そのものだった。

 赤姫という言葉がある。

 歌舞伎好きには、何をいまさらといわれそうだけれど、役者には、得意の役柄があり、「仁にあっている」と呼ばれたりする。女方の役柄は、姫、娘方、世話女房、武家女房、女武道、傾城、遊女、芸者、悪婆、婆、変化などに分類される。
 なかでも、姫は、女方の精華であり、主に時代物に登場するお嬢様で、恋に身をゆだねる役が多く、緋綸子または緋縮緬の着付なので「赤姫」と呼ばれることもある。

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