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長谷部浩のノート お芝居と劇評とその周辺

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2022年10月の記事一覧

【劇評281】花村想太の出世作となった『ジャージー・ボーイズ』チームグリーンのドラマ性。人は大人になり、汚辱にまみれていく。

 中川晃教のヴァリーを擁して『ジャジー・ボーイズ』(藤田俊太郎演出 小田島恒志訳)は、再演を重ねてきた。ふたつのチームで公演する場合も、中川だけは不動で、すべての回に出演してきたのである。  私にとって中川のヴァリーは、唯一無二であり、他のキャストなど考えてみたこともなかった。  この十月に日生劇場で上演されている『ジャジー・ボーイズ』は、ふたつのチームがある。中川を中心としたチームブラックと、花村想太がヴァリーを勤めるチームグリーン。私は新しいチームがどれほどのパフォー

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【劇評280】ユダヤ人一家四世代の流転を描く『レオポルトシュタット』の凄み。小川絵梨子演出の冴え。

 一ヶ月のうちにトム・ストッパードの『レオポルトシュタット』を二度観た。  九月はニューヨークで、十月は東京で。  新国立劇場が総力をあげた舞台は、本年度の演劇界を代表するだけの力に満ち満ちている。  1899年にはじまり、1900年、24年、38年、55年と幕が進むにつれて、ウィーンの裕福なユダヤ人一家が流転していく。  ナチスの台頭、戦争の激化、ユダヤ人虐殺。祖父の代は、貧しいユダヤ人が住む地区、レオポルドシュタットに住んでいたこの一族は、ヘルマン・メルツの代になって

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【劇評279】平成中村座。奇想天外で芝居のおもしろさがぎっしり詰まった宮藤官九郎の『唐茄子屋』!!!。勘九郎の愛嬌。獅童の喋り。七之助のルンバ(笑) 六枚。

 面白い芝居を観客はよく知っている。  満員御礼となった平成中村座の第二部。宮藤官九郎作・演出『唐茄子屋』に注目が集まっていたが、実際の舞台は奇想天外にして、驚天動地。芝居の国のワンダーランドを旅している心地にさせる。 破天荒なおもしろさは無類で、歌舞伎の活力を信じることが出来た。  こうした活力は、どこから生まれるのだろう。  まず、勘九郎、七之助は、若年の頃から父勘三郎の元で、新作歌舞伎を仕立て挙げる楽しさを学んでいる。歌舞伎の外から来た演出家、劇作家とともに、芯とな

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【劇評278】熱狂の平成中村座。勘九郎、七之助が若手花形を引き立てる。進境著しい獅童。五枚半。

 歌舞伎に、沈黙は似合わない。  客席にある種の熱狂があってこその歌舞伎であって、コロナウィルスの脅威が私たちを襲ってから、この興奮状態を忘れかけていた気がする。  久し振りに浅草、浅草寺境内の平成中村座を埋めた観客は、熱い歌舞伎を待ち望んでいた。  全身全霊を賭けて芝居をする役者を観たい、この緊密な空間に身をおきたい。こうした観客の願いが、強く感じられた。開幕を待つときのざわめき、役者の出に向けて贈られる拍手、いずれも、私たちが待ち望んでいた劇場のありかただった。  

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【劇評277】上方と江戸。語りの芸をみせる鴈治郎、幸四郎の『祗園づくし』

 語りの芸を観た。  十月歌舞伎座第二部は、なんといっても『祗園恋づくし』である。劇作の名手、小幡欣治が、四代目坂田藤十郎(当時、中村鴈治郎)と十八代目中村勘三郎にあてて書いた芝居で、上方の言葉と江戸の言葉が正面からぶつかりあう。今回は、現・鴈治郎と幸四郎の組み合わせ。京都の茶道具屋のあるじ大津屋次郎八を鴈治郎が、江戸の指物師留五郎を幸四郎が演じて舞台がはずむ。  まず、下女のお綱(鴈之助)とお千代(芝のぶ)のやりとりが成熟していて、巧みに書かれた筋売りによって、今から何

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ニュヨークスケッチ2 ザ・ドラマ・ブックショップのトートバッグに出会う。

 なにしろ二一年振りのNYだから、かつて訪ねた場所が懐かしい。  メトロポリタン歌劇場の向かって左にある公園には、平成中村座が建っていたなとか、セントラルパークサウスのパークメレディアンホテルには、勘三郎以下、役者も関係者も記者も、みんながこぞって泊まっていたなとか、懐かしい光景を目が探し求めていた。  けれど、あえてその場所を訪ねたりはしなかった。  終わったことは、終わったこと。これまで行ったことのないところを求めて、友人たちのアドバイスに従って、NYを歩いた。  

【劇評276】ホーヴェ演出、イザベル・ユペール主演の『ガラスの動物園』の舞台を読み解く。国境を問わず、多くの人々が圧殺されている閉塞感。六枚半。

 『ガラスの動物園』の常識を打ち破る舞台だった。  コロナウィルスの脅威のために、二〇二〇年、二〇二一年と延期になってきたテネシー・ウィリアムズ作 イヴォ・ヴァン・ホーヴェ演出の舞台を、新国立劇場の中劇場で観ることができた。  冒頭、エプロンステージにいるトム(アントワーヌ・レナール)は、最前列の観客の手を借りて、スカーフを使ったマジックを見せる。のちに重要な鍵となるマルヴォーリオの棺桶を使った魔術を先取りした演出である。  ここで私は、スカーフが私たちの思い出のように思

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