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ニュヨークスケッチ2 ザ・ドラマ・ブックショップのトートバッグに出会う。
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なにしろ二一年振りのNYだから、かつて訪ねた場所が懐かしい。
メトロポリタン歌劇場の向かって左にある公園には、平成中村座が建っていたなとか、セントラルパークサウスのパークメレディアンホテルには、勘三郎以下、役者も関係者も記者も、みんながこぞって泊まっていたなとか、懐かしい光景を目が探し求めていた。
けれど、あえてその場所を訪ねたりはしなかった。
終わったことは、終わったこと。これまで行ったことのないところを求めて、友人たちのアドバイスに従って、NYを歩いた。
まず、もっとも印象に残ったのは、ザ・ドラマ・ブック・ショップ。
一九一七年創立のこの店は、記憶をたどると、私がまだ二十代のころに、これから観る作品の予習をするために、簡易な戯曲の冊子を求めて、何度か訪ねた。
店は何度か移転したと聞くが、二○二○年には、西三九丁目に新たなオーナーによって再オープンした。
内装は舞台美術家デヴィッド・コリンズとそのチームによるもので、広々とした空間にゆったりと書棚が並ぶ、入口入って左手は、飲み物を提供するカフェのカウンターが伸びていて、さらに奥の左には、ゆったりとしたソファーがしつらえられていた。
かつての店は、手狭だった印象がある。
今回は、一直線に目的の本を探すのではなく、滞在型のスペースになっていた。不思議なもので、親戚の家にでも来たような安心感がある。
ここならば何時間いても、居心地がいい。これは誤解かも知れないが、気配から、私もこの世界の一員であると認知された気がした。
本を買い込んだのはもちろんだけれど、しゃれたデザインで、縫製もしっかりしたトートバックが目についた。思わず本とともに求めて、それからは、メットに行くのも、クロイスターズに行くのも、モマに行くのも、そして劇場に行くのも、このバックと一緒だった。やがて馴染んでくると、手提げではなく、肩掛け鞄にして、NYCを歩いた。
足取りが軽く、楽しくて仕方なかったのを覚えている。
これから東京の劇場に行くときも、このバックを連れていく。もし、見かけたら、「NYみやげですね」
と、声を掛けて下さると嬉しいです。
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長谷部浩のノート お芝居と劇評とその周辺
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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。