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長谷部浩のノート お芝居と劇評とその周辺

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2022年9月の記事一覧

ニューヨークスケッチ1。ニューススタンドに、新聞と雑誌は消えた。

 上の写真は、めずらしい。新聞を置いているニューススタンドを探すのは きわめてむずかしくなった。ニューヨークタイムズの日曜版をじっくりベッドで読む楽しみは奪われてしまった。  なにしろ二十一年振りのNYなので、驚くことばかりだ。ニューヨーカーも歩くのが遅くなったなというのが第一印象で、人を押しのけてまで生き急ぐエネルギーは、明らかに衰退している。その意味で世界に冠たるアメリカ合衆国も、厳しい下り坂を降りつつあるのだろう。  また、五番街やブロードウェイのような目抜き通りの

確かな技術があると、どこかで古典性を持ってしまう。六代目染五郎の思い出。

 演出家蜷川幸雄が、はじめて舞台で出会った歌舞伎俳優は、六代目市川染五郎(現・二代目松本白鸚)だった。  現代人劇場、櫻社と小劇場演劇で頭角を現してきた蜷川に、東宝の中根プロデューサーから声がかかった。  演目は、シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』。一九七四年、日生劇場での公演を、私は古文の先生と観に行った。私は高校生だった。  三重のバルコニーをロミオとジュリエットが疾走する舞台に圧倒されたのを覚えている。 「大きな空間で初めて演出する怖れが、全くなかったといえば

【劇評275】トム・ストッパードの新作『レオポルトシュタット』。ニューヨークのプレビューに圧倒される。

 九月の十四日に、ニューヨークのロングエーカー劇場でプレビュー公演の幕をあけた『レオポルトシュタット』を十六日に観た。  トム・ストッパードによるこの作品は、二○二○年の一月にロンドンで初演されたが、劇作家による改訂を経て、ニューヨーク公演を迎えている。ユダヤ人が勢力を持つこの場所で、劇作家自身のルーツを元にする舞台を観るのは、貴重な体験になった。  劇場に行く前から、プレビュー三日目の観客はどんな雰囲気なのかが気になっていた。客席を見まわすと、必ずしもユダヤ人の物語だか

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俳優マルチェロ・マーニさんの優しさと哀しみ。

 俳優のマルチェロ・マーニさんが亡くなった。深いお付き合いではなかったが、とびきりの笑顔の持ち主だった。もう20年近く前になるけれども、彼が創立にかかわったコンプリシテの作品で修論を書くと決めたので、話を聞かせてやってほしいと楽屋にお願いに行った。そんなときも、急がしいそぶりなど、みじんも見せずに、応接してくださったことが忘れられない。    私が接した舞台は、野田秀樹作・演出がほとんどだけれども、1996年の『赤鬼(RED DEMON)』で「とんび」役を勤めたときの幕切れが

才能が七割。

 俳優の資質とは何か。才能と運の比重は、どちらが重いのか。ぶしつけにも、演出家蜷川幸雄に尋ねてみた。  「正直いって才能が七割でしょう。(中略)「おい、それはしゃべり言葉になっていないだろう」なんてダメ出しをするレベルのやつが、後に伸びたなんていうケースは、一度もないです。ちゃんと自意識を飼い慣らして、舞台の上でそんな会話でも普通にできるのは、最低条件でしょうね。会話ができなくても、全く可能性がないかといったら、そうは一概に言い切れないけれども、条件ではありますね」(蜷川+

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21年振りに渡米します。トランプのいないNY。

 今月の15日から渡米します。外国に行くのは、実に4年振り、NYはなんと2001年の平成中村座のNY公演からだから、21年ぶりになります。  主な目的は、トム・ストッパードの『レオポルドシュタット』の観劇です。新国立劇場では、10月14日初日のこの作品がNYでどう受け止められているかを、このNOTEでもレポートしたいと思っています。  もちろん、『レオポルドシュタット』だけではなく、他の舞台も観るし、懐かしいNYがどう変わったか、民主党バイデン政権になって、なにが変わった

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【劇評274】その身を捨てるほどの祖国。文学座『マニラ瑞穂記』の問い。

 信ずるべき国とは、どこにあるのだろうか。  秋元松代作、松本祐子演出の『マニラ瑞穂記』は、大きな問いを投げかける。人間ひとりひとりの身体感覚の大切さについて雄弁に語りかけてきた。取るに足らない人間など、いつの時代も、どの世界にも、いるはずもない。  本作は、題名の通り、フィリピンの首都マニラにある日本領事館を主な舞台として展開される。  時は明治三十一年(一八九八年)。スペインの支配が崩壊しつつある騒乱のなかで、この公館に、フィリピン独立運動を支援する日本人の運動家岸

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俳優の秘密。

 二○○○年に蜷川幸雄は、ジョン・バートンとケネス・カヴァンダーによる『グリークス』を上演している。十本のギリシア悲劇を再構成した戯曲で、三夜連続、もしくは十時間余りをかけて一日通しで上演された。  この作品は、蜷川にとって、これまでの演出家人生の総決算と言うべく作品だった。ギリシア悲劇を初演当時のように、仮面を使って上演するやりかたに、蜷川はまっすぐに異議を唱えた。 「コロスがあるから、ギリシア悲劇が成り立つ。けれどもコロスに仮面をかぶらせないで、どう演出していくか、ど

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