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【劇評275】トム・ストッパードの新作『レオポルトシュタット』。ニューヨークのプレビューに圧倒される。
九月の十四日に、ニューヨークのロングエーカー劇場でプレビュー公演の幕をあけた『レオポルトシュタット』を十六日に観た。
トム・ストッパードによるこの作品は、二○二○年の一月にロンドンで初演されたが、劇作家による改訂を経て、ニューヨーク公演を迎えている。ユダヤ人が勢力を持つこの場所で、劇作家自身のルーツを元にする舞台を観るのは、貴重な体験になった。
劇場に行く前から、プレビュー三日目の観客はどんな雰囲気なのかが気になっていた。客席を見まわすと、必ずしもユダヤ人の物語だからといって身構えた人々だけではなかった。ブロードウェイらしい観光客のグループも混じっていて、陽気な話し声も聞こえた。
けれども、二時間十分の劇が終わると、客席は静まりかえり、カーテンコールも一回だけ。これは作品が真剣に受け止められた証拠で、ホロコーストの記録で終わる終幕に対して、何度も俳優を呼び出すのは、ふさわしくないと考えたからだろう。
私自身も、しばらく席を立てなかった。
それほど、一八九九年のウィーン、ブルジョア階級のユダヤ人家庭メルツ家が、ナチスの台頭によって、離散を強いられる物語は、痛みに満ちていた。一族を率いるエミリアおばあちゃんの家は、一等地のリンクシュトラーセにある。
パトリック・マーバーの演出は、時代が移るごとに、写真のスライドを挟み込む。モノクロームの写真は、時代の状況を雄弁に語るだけではなく、風俗の変化も語っている。残酷極まりない人間の暴力が、二十世紀を支配していたのだとわかる。
年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。