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長谷部浩のノート お芝居と劇評とその周辺

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2021年9月の記事一覧

丑之助の試練。『盛綱陣屋』の小四郎で芝居心を見せる。

 九月歌舞伎座第二部『盛綱陣屋』の小四郎、小三郎は、歌舞伎の子役のなかでも、ずいぶんと芝居のなかでの役割が異なっている。  五月歌舞伎座、菊之助の『春興鏡獅子』で胡蝶を勤めた丑之助、亀三郎が、それぞれ小四郎、小太郎に配役されたと聞いて、なるほど、幼い御曹司たちは、こうして試練を与えられていくのだなと、妙に実感したのを覚えている。  特に小四郎は、これまでも錚々たる名子役たちが勤めてきた大役である。  ところが、現在はコロナウィルスの脅威のただなかにある。  二日初日の予

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【劇評239】幸四郎、錦之助、歌六の『盛綱陣屋』。極限の一刻を生きる。

 だれもが承知の諸般の事情で、開幕が遅れた第二部を観た。  ここまで感染状況がすすむと、だれがいつ罹患するかわからない。隼人も歌昇もさぞ辛い思いでいるだろう。本当に困難な状況を切り抜け、第二部を開けた関係者に感謝しています。    さて、『盛綱陣屋』である。  いわずとしれた時代物の重い出し物で、顔が揃わなければとても出せない。まだまだ、困難が続く今、伝承を絶やさないためにこの演目を出したのは貴重である。  よい点がいくつもある。  まず第一に幸四郎の盛綱と錦之助の秀盛のせ

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【劇評238】街路灯が照らし出す人類の終焉。長塚圭史演出の『近松心中物語』。

 現代演劇として、秋元松代の『近松心中物語』を演出する。  長塚圭史演出の舞台は、この姿勢に貫かれているところをおもしろく見た。  一千回以上もキャストを変えつつ上演された蜷川幸雄演出の舞台との比較は、どうしても避けられない。また、秋元自身が、文楽の『冥途の飛脚』を原作としたと明言しているが、現在でも頻繁に上演される『恋飛脚大和往来』(「封印切」「新口村」)もまた、観客によっては強く意識されるだろう。  こうしたさまざまな幻影をまとった『近松心中物語』を演出するにあたっ

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『昭和の映画絵看板 看板絵師たちのアートワーク』。精魂を込めた絵師、絵描きの情熱。

 絵看板という言葉には、独特の魅力がある。   江戸時代のように宣伝媒体が限られていた時代は、劇場や演芸場の前に、掲げられた庵看板が大きな役割を果たした。  歌舞伎の場合は、どんな演目が演じられるかも、もちろん重要だけれども、誰が出演しているかが最重要である。  師走、京都・南座、顔見世興行の庵看板が掲げられると、季節のニュースで今も報道される。江戸時代から今までかわらず、役者の名前によって、観客はどんな顔合わせの狂言が観られるか、歌舞伎の贔屓は期待に胸をふくらませたのだろ

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【劇評237】勘三郎が演じていない役を、勘三郎のように演じてみせる勘九郎。七世芝翫十年祭の『お江戸みやげ』。

 懐かしい演目が歌舞伎座にあがった。  北條秀司の『お江戸みやげ』は、十七代目勘三郎のお辻、十四代目の守田勘弥のおゆうによって、昭和三〇年十二月、明治座で初演されている。もとより私はこの舞台を年代的に観ていないが、先代の芝翫が、六代目富十郎と組んだ平成一三年、歌舞伎座の舞台を観ている。  吝嗇で金勘定ばかりしているお辻が、酒を呑むうちに気が大きくなり、ついには役者を茶屋によぶにまで至る話は、大人のファンタジーとして楽しむ芝居だと思った。  先代芝翫には、明治、大正、昭和

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【劇評236】仁左衛門、玉三郎。『四谷怪談』は、観客を地獄へ連れて行く

 急に秋雨前線が停滞して、底冷えのする天気となった。怪談狂言を観るには、いささか寒すぎるせいか、四世南北の描いた冷酷な世界が身に染みた。  今年の歌舞伎座は、仁左衛門、玉三郎の舞台姿が記憶されることになるだろう。  玉三郎に限って言えば、二月の『於染久松色読販』、三月の舞踊二題『雪』、『鐘ヶ岬』、四月、六月の『桜姫東文章』上下、そして今月の『東海道四谷怪談』と舞踊を交えつつも、孝玉の真髄を味わうことができた。  かつての孝夫、玉三郎時代の淫蕩な舞台を思い出す古老もいえれば、

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演劇界、未曾有の危機に、ご理解をお願いしたい。

 演劇界にとって厳しいニュースが続く。  大劇場でのミュージカル公演、歌舞伎公演などの商業演劇が、中止などの憂き目にあっている。もとより、スタッフ・キャストに気の緩みがあるわけもない。  災害規模の感染者が出ている現状では、こうした事例が出てしまうのは、やむを得ないことだと思う。  これは大劇場の公演だけではない。  私の身近にいる助手や大学院生の小劇場での公演も、初日を迎えられずに、中止、もしくは延期の憂き目にあっている。  まず、稽古場が関門となる。もとよりマスク、

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