花柳界は、虚実のかけひきのなかで、恋愛を商品とする。(久保田万太郎、あるいは悪漢の涙 第十七回)
小島政次郎の『久保田万太郎』は、「まだ、対(たい、ルビ)で芸者と遊んだことのない私達は、芸者に対して一種異常な憧れを抱いていた。芸者といえば、荷風の相手であり、十五代目(市村)羽左衛門の相手であった。
そこに何かロマンティックな幻影を勝手に描いていた。」と、当時の文学青年が花柳界に抱いていた心情を語っている。
年若くして華やかなデビューを飾っただけに、万太郎には、実社会の経験もなく、生地浅草と家業の職人の生態のほかには、身をもって知る世界はない。
題材に窮した万太郎は