【劇評210】勘九郎、七之助による追善となった『猿若江戸の初櫓(さるわかえどのはつやぐら)』
歌舞伎には、寺社が設立された経緯を構造として組み込まれている演目がある。『摂州合邦辻』は、大坂、四天王寺にほど近い月江寺建立。『三社祭』は、江戸、浅草、漁をしていて観世音菩薩像をすくいあげ、三社様の本尊としたという枠組みがある。中世の説話や説経節を日本の藝能は引き継いでいる証しだろうと思う。
ならば、江戸から綿々と繋がる歌舞伎の家系を寿ぐために、ある種の神話を新たに作ってしまおう。こうした新作舞踊ができたのは、先の伝統に連なる作劇の方法の流れがあるのだと思う。
今月