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「200字の書評」(305) 2021.10.25



こんにちは。

冷え込んだ朝、縮こまりながら歩き始めると真っ白な富士山の雄大な姿が目に入ります。自然と丸まった背筋が伸び、今朝もいつも通りに歩こうと励まされます。

衆院選投票日は31日、国民が主権者としての権利行使であり、義務でもあります。9年近いアベスカ政権の下での不正義と政治不信を正す機会です。日本の賃金は先進国で最低クラス、むしろ目減りしているのが現状です。その一方では富の偏重が甚だしく、一部の富裕層は益々富み、貧困層の困窮は極まっています。モリカケ疑惑、桜を見る会疑惑、参院選広島選挙区の買収疑惑、学術会議人事拒否など身びいきと政治の私物化が進行して、腐臭が漂っています。

護憲と生活擁護、知性を尊重する政治を求める立場から野党共闘に希望を見いだしています。なんとしても自公政権と維新などの隠れ与党に痛撃を与えたいものです。私はそれを願い期日前投票を済ませました。同時に、裁判官国民審査も重要です。三権分立の一翼で、行政の作為不作為を牽制し、違憲立法審査権も持っています。でも違憲審査には及び腰、政権寄りの判決が目立ち、ジェンダーにも否定的であり、冤罪再審には冷たいようです。少数意見の裁判官はいるにせよ、この審査制度では✖️をつけなければ信任となります。私はこの制度に異議を唱える立場から、すべてに✖️を付けました。

さて、今回の書評は少し軟らかめにしました。




田畑書店編集部編「小川洋子のつくり方」田畑書店 2021年

この題名からは二つの取りようがある。小川洋子が小説を構築する手法と、編集者や読み手が作家としてつくり上げる過程、の二つである。一人の作家の評伝には、こうした形もあるのかと瞠目する。伝えきれなかったが故に言葉を大切にし、それでいて沈黙を語り、観察者としての作家であろうとするところに、小川の鋭敏さを見る。理系に興味を寄せる一方で、孫への愛情を可愛さと悲しさは紙一重であるとする感性はいかにも作家らしい。




【神無月雑感】


▼ 子どもや若者の自殺が増えているという。無残な話です。昨年度の小中高校生の自殺者は415人、前年比31%増と伝えられています。10代、20代の自殺者も多く、ここ数年の減少傾向が増勢に転じているそうです。生きがい、働きがいを感じられず、希望を失っているのでしょうか。この不条理な社会に絶望しているのでしょうか。未来を語れる社会であるようにしたいものです。


▼ 皇族の結婚問題が耳目を集めています。皇族には基本的人権が保障されていない事実が浮き彫りになっています。天皇制がはらむ諸問題がここにきて露呈しているように思えます。欺瞞的な明治維新以来、絶対的天皇制が建前として設定されてきました。破滅的な敗戦を招きアメリカ占領軍統治下の戦後、GHQと旧支配層は国民の天皇への素朴な崇拝をテコに占領支配を強固なものにしました。他の連合国から指摘された戦犯容疑を論理ならぬ論理で排します。そうした無理に無理を重ねた政治的利用のシワが寄り、今日の皇室の危機につながっていると思うのは考えすぎでしょうか。




<今週の本棚>


黒井文太郎「謀略の昭和裏面史―特務機関&右翼人脈と戦後の未解決事件!」宝島社文庫 2007年

いかにもおどろおどろしい題名である。内容もそれに劣らぬ複雑怪奇さが秘められています。軍国日本を主導し、満州事変日中戦争そして太平洋戦争に突入、悲惨な結果を招きました。その責任は東条英機ら政治的エリート軍人、大陸で暗躍した謀略機関の軍人と右翼、それに追随し時には扇動した政治家有力者などにあり、その実名が続出。彼らは戦後も占領軍に取り入ったり、利用されたりして生き延びています。松本清張らは松川事件下山事件など戦後の不可解な事件には、米国の情報機関と日本の旧謀略機関が関係しているのではないかと提起しています。深い淵を覗くと今日まで連綿と続く人脈があります。現代の二世三世政治屋、スーツを着こなした大経営者、黒幕然とした右翼の大物などは戦前からの暗い尻尾を引きづっているのです。


小熊英二「<民主>と<愛国>―戦後日本のナショナリズムと公共性」新曜社 2002年

読み直しています。三読目です。昭和史を見直したいという気持ちが強まってのことです。一日1章か2章を読むのが精一杯で、考え考え、時々前に返ったりします。以前の読み方が実に雑であり、読むたびに新たな発見があります。いつ読み終わるか先は見えません。保坂正康の実証的昭和史にも刺激を受けています。井出孫六「昭和の晩年」(みすず書房)も再度繙かねばと思っていますが、読解力、集中力の低下が著しいので心許ない限りです。




コロナ禍危機が去りつつあるとの見方で、規制が緩和されています。古い友人や職場の仲間とグラスを傾けたい気持ちは理解できます。冬場を目前に第6波が無ければよいのですが。友人たちとの飲み会はまだ先になりそうです。

皆さま、投票をお忘れなく。 どうぞご自愛ください。


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