![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/171433275/rectangle_large_type_2_eff21a98c2b38d78feef25aff652f120.png?width=1200)
「200字の書評」(298) 2021.7.10
こんにちは、皆さまお変わりありませんか。
梅雨寒、雨空から一転、今朝は強い日差しが降りそそぎベランダで洗濯物をほしていると、汗が噴き出してきました。九州の鹿児島、宮崎、熊本では豪雨被害が心配されています。線状降水帯という近年聞きなれた現象で、災害が多発しています。熱海では1週間前に大規模な土砂崩れが発生し、テレビで見ているだけで恐怖感を覚えるほどでした。原因は今後調査が進むでしょうが、人災の側面も否定できないようです。熱海と言えば名だたる温泉地ですが、貫一お宮の松がある平坦地はごくわずか。ほぼ斜面に成立している街です。かのMOA美術館も小高い山の上から街を睥睨しています。犠牲者の冥福を祈るとともに、行方不明者の一日も早い救出と、被災者への援助を願うばかりです。
こんな状況で五輪強行とは、金?名誉?権力維持?イヤハヤ!
さて、今回の書評は宇宙を探求する鋭い視線で市井を見極める、宇宙物理学研究者の警世の書です。
池内了「宇宙研究のつれづれに―「慣性」と「摩擦」のはざまで」2021年 青土社
科学者の倫理と自律性を問い続ける著者の目は鋭い。軍事研究への接近、企業化の可能な研究の推進などは、いずれも潤沢な研究費の誘惑がある。学術会議問題に見られるように、新自由主義は大学の自治・研究機関の自主性を奪い、結果を求め哲学なき技術の肥大化をもたらす。研究費の窮迫により、地道な基礎研究は後景に追いやられる。終章退職後の課題とした江戸期の司馬江漢、明治期の寺田寅彦らの業績に関する評論は秀逸である。
【文月雑感】
▼ 蒸し暑い昨今、散歩の道すがら田んぼを渡ってくる風の音と香りに初夏を実感します。先月植えたばかりの苗の背丈が伸び、足音に驚いたカエルが飛び込む水音も時折響いてきます。心の平穏を保つうえでの、のどかな情景は貴重です。耕作放棄と思しき元水田が散見され、瑞穂の国の行く末が気になります。
▼ 土木工事で留意すべきは、土と水にあります。地下のことは事前調査をしても、なかなかわかりにくいものです。粘土質、砂混じり、礫、火山灰、泥炭など土質は千差万別です。掘るに従い簡単に崩れるもの、かなりの間自立してくれるもの、それぞれです。掘り上げた土はほぐれて空気を含み土量が増えます。つまり、固まっている土とほぐした時点で密度が全く違うのです。
また、水の問題は深刻です。地下水位の高いところでは、わずか数10cm掘り下げただけで水が噴き出す場合もあり、それなりの準備が求められます。こうしたことから、埋め戻しをしたり盛土をする場合は、慎重な施工が求められます。例えば、層別転圧と言って30cm毎に重機を用いて締め固めなくてはなりません。それでも地山という、もともとの強度に戻るには長い期間が必要です。
斜面崩落を防ぐ擁壁は、設計施工に緻密さが求められます。石積みなり間知ブロック、コンクリートなどが構造材です。擁壁の後ろ側には裏込め石が一定の厚みで入れられ、さらに擁壁の面積に応じて水抜き口が設けられます。水の圧力を分散し、スムーズに排水するためです。げに恐ろしきは水圧かな。
熱海の土砂崩れをみての、元土建屋の独り言です。
<今週の本棚>
高杉良「破天荒」新潮社 2021年
企業小説の大家が語る、自伝的小説。かなり鼻っ柱の強い、狷介さ故にあそこまで踏み込んだ小説が書けるのかと、納得。
桐野夏生「インドラネット」KADOKAWA 2021年
自堕落な生活をしていた青年は、突然姿を消した親友の行方を求めて、混とんのカンボジアに旅立つ。そこで見たものは不可解な事態の連続だった。その彼方に見えたものは。
東郷隆「病と妖怪」インターナショナル新書 2021年
コロナ禍収まらず、政治も行政もあてにならず神仏に頼りたいくらいの心情もありそうです。ここで注目を集めた妖怪がアマビエ。歴史的に疫病が蔓延すると、市井には様々な妖怪が出現する。現代でも頼るのは同じか。
ワクチンは届かず。権力者の声がむなしく響く今日この頃です。どうぞ健康を守る努力を。