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玄人志向 Yashica Electro35 MC
コンパクトカメラが大衆向けだと誰が決めたんだ。
ガンギマリ
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みんな大好きヤシカのお時間だ!
ロウソク一本の明かりで写る! 落としても壊れない! 大きめの連動距離計方式ファインダーで二重像も見やすい!!!!! と始まったYashica Electro35シリーズ。現存個体の多さから当時売れに売れまくったと思います。私の手元にもたぶん三台はあります。
ただそのElectro35シリーズには良さもあったが使いづらさもあった。デカくて重いのだ。その本体の中に詰め込んだコンデンサと配線、頑丈さを形作るフレーム、大口径レンズと軽くなる要素が全くなかった。そこでヤシカは1973年にこれらElectro35シリーズの弱点を克服したコンパクトカメラを発売した。それがこのYashica Electro35 MCだ。
なんかちいさくてかわいいの
手に余る大きさから手のひらサイズへの小型化、ピントは目測式、シャッタースピードは絞り優先で自動決定。しかし本体の堅牢さはしっかりとしたフレームで維持、あの配線地獄だった軍艦内部もプリント配線を採用するなど見えないところも大分変った印象がある。
連動距離計、レンジファインダーの弱点は老眼になりだすと二重像が見えない点にあった。そこでElectro35 MCは他のコンパクトカメラと同様にざっくりとした距離をピント環で合わせて距離に対して合焦する被写界深度の絞り値に合わせるだけで撮れるゾーンフォーカス撮影の目測式になった。
使った感想
カメラ本体は確かにコンパクトカメラのサイズ、ファインダーも大きめで見やすい。それはいい。ただレンズシャッターユニットがデカいんだワ。本体から出っ張ったレンズシャッターユニットがカバンの中で引っかかり取り出しにくい。
またオートモード切替などはなく、シャッタースピードが任意決定できないのでブレる時はブレまくった。コンパクトカメラの使い方として出先で散歩ついでやスナップ撮影がよくあるケースだと思うがシャッタースピードを固定できないのでISO 400のフィルムを入れて設定しても無限遠距離などを撮る際に絞り値をf8やf11にするとシャッタースピードが低速で決定してしまう。他のカメラにあるようなファインダー内のシャッタースピード表示指針などもなく「ここだと低速になってるから保持をしっかり目にするか」とか「ここはやめとくか」などの判断材料がない。つまりこのElectro35 MCは何が何でもぶっつけ本番になるカメラであり、常にブレる可能性や目測がズレる可能性が排除できない。フィルム三本セットで千円ちょっとするかしないか、現像0円プリント10円の時代ならまだしも2022年現在のフィルム一本と現像データ化のお値段相場でこのカメラを使うにはかなりのリスクを背負う必要がある。
つまりこう、撮影者がザコ
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上がってきたデータを見てびっくりした。ほぼ全部この調子で撮れていた。明るさに油断してパチパチ撮っていたらカメラ側は測光結果と絞り値からかなりシャッタースピードを遅くしていたようだ。ただ真っ暗真っ白という写真は一枚もなく、カメラとしてはちゃんと仕事をしていた。
つまり俺がザコだったのだ。
まずはちゃんと構えよう。
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空間の明るさに甘えずにカメラを構える際にしっかりと脇を締めて背中で合わせていくとこのようにISO 100のフィルムであってもブレは無くなった。
焦点距離もいわゆる”前ピン”、気持ち手前で合わせて絞り値もそこに合焦するようにした。
レンズスペックはYashinon-DX f2.8 40mmだ。元のElectro35に付いているYashinon-DXはf1.7かつ大口径レンズで開放側で撮れば背景を蕩かしたエフェクトがかかったようなボケ感のf1.7とは違い、こちらのf2.8はピントが合っていない距離はただ合っていない描写になる。この素直さはM42マウントのYashinon-DXにもなく、今のボケ感ブームには向かないかも知れない。
甘えたら失敗する
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カメラとしての機能は十分に満足できる。ただカメラは道具であって使うのは人間だ。目測式ピントでボケる心配をする前にちゃんとカメラを保持しよう。歩きながらとかもってのほか、撮りたい対象に向かいちゃんと立ち止まってカメラをしっかりと構え、構図を決めてシャッターを切ろう。Yashica Electro35 MCは”ながら”で撮れるほどあまいカメラではなく、撮影者の腕を素直に反映するカメラだ。使った感想を述べるならばこのカメラは真面目に写真を撮ればちゃんと撮れる、ただそれだけを教えてくれる貴重なカメラだと思う。
向き不向き
このYashica Electro35 MCが発売された時代はコンパクトカメラ群雄割拠だった。同年代にKonica C35系、発売の二年前にはオリンパスの35DCが発売されていた。フィルムは現像に出してプリントを見るまではどう撮れているかわからない、この前提において少なくともレンジファインダー機ならピントの二重像を合わせる過程で必然的にしっかりとカメラを保持する姿勢になって連動距離計とヘリコイドの連動で必要な位置に合焦してちゃんと写真が撮れる。老眼などで二重像を見ることが難しくても1959年のNikon Fの大ヒット以来、一眼レフ機の普及が広がり文字通り”見たままが撮れる”時代が到来していた。その時代の中で目測式、しかもシャッタースピードがわからないは製品としてどうだろうか。
現代の感覚から過去を評価するべきではないがこのカメラを使った感想を述べるならばあまりにも玄人志向、有り体にいえば姿見た目は大衆向けなのに実態がハイアマチュアかプロ向けになっている。沢山失敗できてその分だけ練習できる頃ならば沢山のことを覚えることができただろうとは思うが少なくともこのカメラを初心者に勧めることはない。確かにこのカメラにも撮る楽しさはある、だがその楽しさは簡単に得られる楽しさではなく”これから”撮りたい人よりは”これからも”撮りたい人が得られる楽しさだと思う。一言でいえば向き不向きが激しいのだ。
ここまで読んだ上で「やってみたい」「使ってみたい」と思えるならばYashica Electro35 MCの門を叩くがいい。
『このカメラを使う者は一切の甘えを棄てよ』