見出し画像

同情するなら撮ってくれ Nikkorex F

 ザクかヅダでいうと、ヅダ。

俺はFマウント一眼レフ機だ。

 ニコン不変(不変ではない)のFマウントカメラは1959年の始祖であり名機のNikon F発売から始まった。その三年後、1962年に発売されたレンズ交換式一眼レフカメラがこのNikkorex Fだ。このFの前にもレンズ固定式のNikkorex 35と35Ⅱがあったがついにレンズ交換があのニッコールレンズのFマウントで可能になった。あのニッコールレンズが大衆カメラで使える! と当時の人々は歓喜に満ち、た記録は見つからなかった。

三年天下

 Nikkorex F発売の三年後、1965年にTTL測光機能を三角屋根の中に内蔵したニコマートFTがNikon本社から発売された。Nikkorex Fにアクセサリーで取り付けることができた露出計は外付けセレン式だったのに対してニコマートFTはCdS抵抗素子を使用した露出計であり測光性能は格段に上だった。そしてニッコールレンズ名物の絞り環カニ爪がマウント部の突起を掴み、カメラ側に自動でレンズの絞り値を伝えることができた。
 ざっくりいうとニコマートFTシリーズが発売されてからはユーザーがNikkorex Fを選ぶ理由はほぼ無くなったといえる。なんならニコマートシリーズがこの後のFTnで売れに売れまくり、マイナーチェンジモデルも発売されて最終形のFT3は今でも人気がある。

Nikkorex Fを使った感想

Nikkorex F

 このカメラをインターネットで調べるとどこもボロクソに書いている。書かれている内容はほぼ真実であり、弁護団の結成も難しいと思う。ただ私はこのカメラが初めてのフィルムカメラであり、とても思い入れがあるのでその分も含めてボロクソに述べていく。

巻き上げレバーの苦

 読者諸賢にはまずアナログ時計の文字盤を思い浮かべて頂きたい。このカメラは非電源フィルムカメラなので1コマ撮るごとにフィルムを巻き上げる必要がある。アナログ時計の文字盤でいうとNikkorex Fの巻き上げレバーはスタート位置が8時、巻き上げのゴールは1時の位置である。この8時から1時の間を反時計回りにレバーを押すわけだ。そしてレバーが太ければまだ救いはあったかもわからないがなぜかレバーは先端にいくほど細くなり巻き上げ時に親指があたる位置は私の小指より細い。ニコマートFTはかなり太く作ってあるので巻き上げやすいですよ。おすすめです。
 Nikkorex Fのフィルム巻き上げ設計はファインダーを覗きながら巻き上げることを想定していたとは思えない。指で巻き上げるというか手首で巻き上げる動作になるので使っていると一回撮って顔からカメラを離し、巻き上げてまたファインダーを、となる。ユーザーインターフェースとしてはクソである。

シャッター”ショック”の苦

 世の中には帰宅するとフィルムカメラを眺めたり空シャッターを切りつつ一息つく人々がいるらしい。Nikon Fならばウイスキーをグラスで三つはいけるとかいけないとか。私もカメラを触ったり動かしていると心が落ち着くのでKonica ⅡBの沈胴を動かしたりするから彼らの気持ちには同意するところが多い。その中でもシャッター音を楽しむ人々がいるらしく、Canon 旧F-1の淑やかな音などは人気である。私はカメラで日々の疲れを癒す人々にこのNikkorex Fで空シャッターを切って頂きたい。きっと思ったことが瞬間的に表情へ出力されるはずなのでそれを撮りためて写真展をやったら楽しいと思うんだ。100人のNikkorex F展。

 音自体はレンズを付けて裏蓋を閉めておけばそこまで気になるほどではない。Nikkorex Fでも直管竹ヤリ六本仕様よりは静寂さがあると思う。問題は空シャッターを動かした瞬間、手にガツンとくる明らかな衝撃である。衝撃の原因がミラー動作からなのか、それとも縦走金属シャッターユニットなのかはわからないがこのカメラを三脚に乗せて1/30や1/60でシャッターを切ればブレるであろうと自信を持てる衝撃だ。手持ちなら1/125や1/250でも無事に撮れているか不安になる。

アクセサリーシューの苦

 なぜこの形にしたんだ。ニコマートでも角度を付けた台座にアクセサリーシューを付けて三角屋根の上に乗せ接眼レンズのネジで固定するとかできたじゃないか。時代の技術的にできなかったとは言わせないぞ。
 カメラ本体シャッタースピードダイヤル下にある金具、これがNikkorex Fのアクセサリーシューである。使い方は今のカメラとは違い、水平方向にアクセサリー類を取り付けられる平面タイプではなく上から下へ垂直方向にアクセサリーを差し込む。純正品のセレン式露出計が取り付けられたNikkorex Fを何回かインターネット上で見かけたことがある。

でもいいところがあるんですよ

 ニコマートシリーズではオリンパスのOM-1シリーズのようなマウントの口金横にあるシャッタースピード環が採用されていた。同じ箇所にニコンのガチャガチャで使う突起環やフィルム感度の設定環がある。これが絶妙に使いづらい、シャッタースピードを変更する時にカメラを傾けて指標の数値を見なければならず正直この点は良いと言えない。
 対してNikkorex Fは多くのカメラと同じく軍艦上部にシャッタースピード設定ダイヤルがあり、指標のフォントサイズもニコマートの設定環より大きく見やすい。
 フィルム室の裏蓋はNikon Fの取り外し式とは違い蝶番式で開閉動作はとても楽になっている。さらにフィルム感度と何枚撮りか、カラーかモノクロかを一時記録できるダイヤルがありくるくる回しながら設定できる。

 以上。一応発売されたのが時代的に『NIKON』ロゴマークになる前なので『NIPPON KOGAKU TOKYO』のおにぎりマークが裏面にある。

Fマウント、ニッコールレンズを信じろ。

Nippon Kogaku Japan Nikkor-S Auto 1:2 f=5cm + Fujifilm PREMIUM 400
Nippon Kogaku Japan Nikkor-S Auto 1:2 f=5cm + Fujifilm PREMIUM 400
Nippon Kogaku Japan Nikkor-S Auto 1:2 f=5cm + Fujifilm PREMIUM 400
Nippon Kogaku Japan Nikkor-S Auto 1:2 f=5cm + Fujifilm PREMIUM 400
Nippon Kogaku Japan Nikkor-S Auto 1:2 f=5cm + Fujifilm PREMIUM 400
Nippon Kogaku Japan Nikkor-S Auto 1:2 f=5cm + Fujifilm PREMIUM 400
Nippon Kogaku Japan Nikkor-S Auto 1:2 f=5cm + Fujifilm PREMIUM 400
Nippon Kogaku Japan Nikkor-S Auto 1:2 f=5cm + Fujifilm PREMIUM 400

 現場から発掘されて貰ったカメラだったがレンズに曇りや拭き傷などはなく、前のオーナーはとてもこのカメラを大切にしていたようだ。購入後にしまい込んで忘れていた可能性が高いと思えるほどには状態が良い。現像後の画像データを見る限りでもシャッタースピードはほぼ定格が出ていたようで今だからわかるがこの時代のカメラを軽い清掃のみ整備なしで使えることはかなり珍しい。保管状態の良さもあったと思うがNikkorex Fは作りとしてNikon Fの堅牢さを参考にした可能性もある。この点もNikkorex Fの褒めるべき点に含めたかったが私の手元にはサンプル数が一つしかなく、他の個体がどうなっているかがわからないのでNikkorex Fの堅牢さについては言及を避ける。サンプル数を増やすために他のNikkorex Fを触ることも購入することも避ける。

結論

 Fマウントのフィルム一眼レフ機でどれを買うか悩んだ場合はニコマートのFTnかそれ以降を購入すればいいと思う。奮発してフラッグシップ機のF一桁もアリだと思う。どれもニコン製、設計に間違いはないし整備代を支払う価値もある。ただコレクターでもない限り、使用目的でNikkorex Fを選ぶ理由はない。Nikkorex Fが中古市場にもなかなか出ることもなく、中古カメラ店をまわる電車代でニコマートを買えるだろうとも思う。

 それでも私がこのNikkorex Fを手放すことはない。機械としての評価は上記の通りだが機械の良し悪しとは別にこのNikkorex Fを持っていたい。理由は初めて自分が一眼レフでフィルム撮影をしたカメラであるということが一つ、後の世に伝えていきたいカメラであるという点が一つだ。自分の思い出と歴史的物証を鉄くずにせず、自分の息があるうちは遺していきたい。

 私はNikkorex Fからフィルム写真を始められた事実を幸運だと思う。この重く、撮る度に殴られるような衝撃が走り、ファインダーも狭いこのカメラから始めたことで大体のカメラに不満を感じなくなれたのだから。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集