月曜日の友達

感想文です。

 「月曜日の友達」という全2巻のマンガがある。作者は阿部共実という人で、代表作は恐らく「ちーちゃんはちょっと足りない」であり、現在(2020年2月)は「潮が舞い子が舞い」を連載中である。

 で、件の「月曜日の友達」は「潮が舞い子が舞い」の前に描いていたもので(詳しくないので間違っていたら申し訳ない)、自分は単行本を買って読んだので連載時期などはわからない。しかしこの「月曜日の友達」を買った時、この作品どころか阿部共実というマンガ家を申し訳ないのだが全く知らなかった。じゃあなんで買ったんだいという話なのだが、自分はamazarashiの大ファンである。わかる人にはこれだけで「なるほどね」となるかもしれないが、一応細かに説明しておくと、2018年3月にamazarashi公式ツイッターが新曲を告知する。

 自分はWi-Fi接続時以外でyoutubeの視聴は絶対にしないのだが(格安simの回線のせいなのか読み込みが遅く画質が粗くなるし、月に3GBしか使えなかったため)、直前に公開されたティザームービー的なものがすごく良かったので、何が何でもいち早く聞きたいと思い旅行中の東京の宿泊先で20分ほどかけて公開されたばかりの「月曜日」を聞いた。やっぱり曲がめちゃくちゃ良いし、PVも良い。世界観というか、引き込まれるような絵だったのが印象に残っている。こ〜れはマンガも買って読まなきゃなあ、と思い、旅行中だったにもかかわらず新宿のブックファーストで「月曜日の友達」を購入。
 帰りの高速バスの中で読むと号泣してしまい周囲の人にめちゃくちゃ心配されてしまってめちゃくちゃ後悔した。ただマンガを読んで感動して泣いてグズってただけなのに運転手の方に「冷房効きすぎてましたか!?ごめんなさいね〜」と言われたことは一生忘れないだろう。ありがとう。でも違うんですごめんなさい。
 しかし内容は半端じゃなく良かった。バスの中ではしっかり細部まで考えながら読み込むことができなかったので帰ってから熟読した。やっぱり泣いた。読み終わったあとにamazarashiの「月曜日」を聞く。泣いた。いや〜〜〜〜これは暴力的だ。アカンでしょ。秋田ひろむが描いた「月曜日の友達」の世界がノンストップで心を揺さぶり続ける。「僕にとって君はとっくの昔に、特別になってしまったんだよ」やめろ〜やめてくれ〜〜もう涙は売り切れてるんだ〜〜〜。今でも聞くとたまに泣いてしまう。

 と、いう具合にとてつもなく強烈に心に残った、そして好きになった作品である「月曜日の友達」についてちょっと語らせてください。なんで2年前の作品を今更?と思うかもしれませんが、いつの作品だろうが感想書くには関係ないし書きたくなったから書くんです。お付き合いください。
 ネタバレ有りというか、既に読み終えた人向けに書くのであらすじも割愛します。

 絵しかり文章しかり、作家それぞれに書き方というかクセみたいなものがあるように、このマンガにもそれは存在していて、しかもこの阿部共実という人はそれが結構強い気がする。しかしそれが不快だとか読みづらいだとかそういうことはまったくなく、むしろそれが読みやすく心地よいものであると思う。西尾維新の言葉遊び的な文章に似て、韻を踏んだり、リズムを意識したりしている的なことをインタビューで語っていた気がするが、それが見事にハマっているのだ。それは「潮が舞い子が舞い」では更に洗練されているのでぜひそちらも読んでほしい。
 その文章によって描き出されるのは情景のみならず、心の奥底というか複雑怪奇な感情の細かな部分にまで及ぶものだからもう読んでいて天才じゃないかこやつはと思わされた。自分が作中で一番好きなセリフはラストシーンの
「君がいつか大人になった時にふと、時々でももし、この町で働いている俺のことを思い出してくれたなら、それはどれだけ大きな幸いだろうと思う。けれどもし君が、道を歩いている自分の傍に君がいてくれたなら、それがどれだけ美しいことだろう。」
 という月野のセリフ。自分は世界で一番美しい文章だと思います。「大きな幸い」と手前を文章に対しての「どれだけ美しいことだろう」という言葉のチョイス。自分のわがままといずれ来るであろう別れへの辛さ、切なさ、それらを想起させることによるこの瞬間のきらめき、儚さの演出など…この言葉のチョイスにより月野の心情も人となりも見事に表現していると思う。凡人にこんな美しい言葉を選ぶことができるか?天才だろマジで。

 あとここは単純に共感できたところなんですが、中学1年生を主人公に据えているのでやはり大人への変化、成長っていうのがテーマの1つでありそれを特にはっきり書いているなあと思ったシーン。
「自分が傷つくことより人を傷つけることがこわいことを知った。自分が傷ついたことより人を傷つけたことがつらいことを知った。」
 火木が月野にゲーム機を返した後のシーンですね。いやもうそれって一歩ずつ着実に大人になってるやん…。中学生でそれを理解するのは十分すぎるほどに大人だと思います。
 読んだ人なら最初から感じているとは思うんですが、やっぱり登場人物みんなリアルな中学生よりは幾分か大人っぽいセリフを言ってるんですよね。でもそのギャップというか軋轢みたいなものがあるからこそ、最後の方でちょっと成長した、大人になったことを強く感じ取れるんだと思います。逆に最初からリアルな中学1年生を描いていたら最後の方で「急にキャラ変した?」みたいな違和感があったんじゃないかと。最後でギャップが埋まることでパズルのピースがパチリとハマるような、納得できるような仕上がりになってるんじゃないかなあと。いやあコペルニクス的転回って正にこれじゃないですかね。チェス盤をひっくり返せ。

 次に絵についてです。このマンガはモノクロで描かれてはいますが、
モノクロの絵×やべえ表現力の文章=イメージがより膨らみやすい
 のではないかと思っています。モノクロで色彩情報が不足しているからこそより強く風景をイメージさせようとするテクニックみたいな。とはいえあのとんでもねえ表現力、文章力がないと成り立たないと思いますが。
 それとね~白と黒の使い方がとっても上手いと思うんですよ。真っ白と真っ黒です。背景が夜であっても真っ白になったり、昼でも黒くなったり、表情を隠すだけなら黒のみ使えばいいのに、白で表現していたり、などなど…。月野や水谷の心情を表しているだけでなく、表情の一部になっている場面もあったりして、使い方というか置き方って言うんですかね。自分は絵を描かないどころか絵の心得が微塵もないので的確になんと言えば良いかわかりませんが、とにかく背景の白黒だけじゃなく顔の白黒にも注目してほしいです。あと黒いだけのコマとか白いだけのコマとか、とにかく使い方が上手い(語彙力の喪失)。

 長々と自分が思うことを書き連ねてきましたが、結局は思春期真っ只中の中学生が大人になるって何なんだ?という永遠のテーマのようなものを真正面から考えて、これが私の答えだと言わんばかりのストレートをぶん投げてきたような作品です。自分はこのマンガ以上に美しい作品を知らないかもしれない、と思うくらい良いものですのでぜひ読んでみてください。

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