我が家のおひな様
娘の初節句に実家の父が買ってくれたお雛様は
なんとも言えない優しい表情をしてこちらを見ている。
私の田舎では初節句に嫁の実家が雛人形を送るという習わしがある。
当時、父と母はそれはそれは張り切って何件も店をまわり初孫のために雛人形を選んでくれた。
26年前のことだ。
初節句の日には両家が揃って賑やかにお祝いの宴が催されたのを思い出す。
まだ生後4ヶ月の娘を取り合うかのように、父と母と義母と叔母になりたての妹が代わる代わる抱っこしたり、あやしたりしている光景を今も昨日のことのようにはっきり覚えている。
そこにいる誰もが娘の健やかな成長と幸せを願った。
笑顔が溢れ、皆をあんなにも幸せな気持ちにしてくれる娘のことを私は神様から授かった「天使」だと感じていた。
昭和の頑固オヤジを絵に描いたような父が孫の前ではとろけるような目をしてデレデレになってしまう姿を見るたびに天使ちゃんに感謝した。
みんなに祝福されて産まれてきた娘。
沢山の人に愛されて成長した娘。
♪あかりをつけましょぼんぼりに〜おはなをあげましょもものはな〜♫
と鼻歌を歌いながら私は今年も押入れの1番奥から雛人形が入った大きな段ボール箱を出す。
今日は「大安吉日」
スーパーではバレンタインのチョコレートコーナーだった場所が桃の節句の雛あられコーナーに変わっていた。
去年は忙しくてお雛様を出すのがギリギリになってしまった記憶がある。
せっかくの雛人形を3.4日しか飾れなかった。
片付けるときにお雛様とお代理様には
「短い間しか飾ることができなくてゴメンなさい。」と詫びた。
今年は早めに飾ろう。
「わぁーお雛様だ!」
学校から帰ってきた娘は嬉しそうに叫び、ランドセルを背負ったままお雛様の前に正座してじっと眺めている。
スーパーで買ったカラフルな雛あられをお雛様の前に供えると娘は小さな手でそれを1つ摘んで口に入れた。
「甘くて美味しいですよ」
と、そっとお雛様に語りかける。
娘はお雛様は皆が寝た後に雛あられを食べていると信じている。
たまに雛あられが残ったままの時などは、
朝起きてきたた娘がそれを見て
「お雛様はお腹が痛いのかなぁ?」と言って
心配顔をする。
やがて娘もお雛様が食べているのではないと知るのだが、娘は4歳下の弟には本当のことを言わなかった。
朝起きると直ぐにお雛様の前に置かれた空のお皿を確認し雛あられを供えるのを息子がとても楽しみにしていたからだ。
誰もいないリビングでお雛様と向かい合い、お気に入りの濁り酒(白酒の代わりに)を1人呑む夜は、
今は天国で娘達のことを見守ってくれている父のことや、子ども達の幼い頃のことが次々と思い起こされる。
雛人形はお節句が終わったら早く片付けないと娘の婚期が遅れると言われているそうだが
「それなら今年は少しゆっくり片付けようかしら?」なんて企む母なのである。