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三都メリー物語

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神戸、大阪、京都を背景に男女の人間模様を描いてみました。
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2020年6月の記事一覧

『三都メリー物語』vol.21

 しんしんと降る雪が、音を吸収しているかのように静寂な夜の暗闇にアパートの表札を灯す明かりを頼りにpostの中から一通の封筒を手に取った。
裏を見ると、藤岡准教授からだった。雪が、その封筒の上に乗っては溶けて水になり紙がふやけた。レイは、濡れたところを手で軽く拭いた。

 雪の積もる階段をすべらないようにゆっくりと上がり鞄から鍵を取り出し扉の鍵を開けた。外より冷たく思える部屋に明かりをつけ、手紙

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『三都メリー物語』vol.22

 午後八時の南東の空に丸く大きな月は周りに雲ひとつなく、少し色付いて見えた。暗闇の一面かのように見える田んぼは水が張られ、車窓から明かりの漏れる電車がその田んぼに車体を写しながら進んでいく。
六月に入ったばかりだというのに、蒸し暑い。少しばかり五月蠅い蛙はたちはいつ寝るのだろうかとレイはふと思う。
仕事を終え、自宅のアパートの階段を上る時に見えた景色だ。途中、スーパーマーケットに寄って夕食の材

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『三都メリー物語』最終話

『三都メリー物語』最終話

 青い空は雲ひとつなく、乾燥しているためか青はどこまでも青い感じがした。
冷たい風が、レイの千鳥格子のトレンチコートの裾をめくった。少し肩をすぼめて、首に巻いたマフラーをレイは深いめに顔を覆った。

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