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三都メリー物語

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神戸、大阪、京都を背景に男女の人間模様を描いてみました。
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2020年4月の記事一覧

『三都メリー物語』⑮

どんよりした厚い雲が空に覆われている。
そのうち激しい雨が幾数の糸のように風と共に降ってきた。木々の葉は風で揺れ、ベランダに干していた洗濯物も大きく風で靡いていた。
仕事を定時に終え、レイが自宅に着いてすぐのことで、慌てて洗濯物を取り入れた。
「また雨かあ」レイは、ひとり呟く。梅雨なのでしかたのないことだが、こうも雨の日が続くと気が滅入ってしまう。立葵という花が先っぽまで咲くようになると梅雨明

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『三都メリー物語』⑯

春の優しい太陽の日に心地よい風で道路脇に設置されているフラワーポットのビオラが優しく揺れている。朝の通勤でそんな光景を見るとレイは、今日も一日頑張ろうという気になる。
会社のデスクに着いたとき、稲垣がよくレイを見てニコッと微笑むが、近頃はそんなこともない。レイはそんな稲垣にメールを送っていない。
稲垣さんは、亀山さんと同棲しているから私にメールの返事を、あの手紙が置かれる以前からしなくなっていた

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